【声明】
 

引野口事件・片岸みつ子さんに対する検察官控訴断念の報道について

 

3月5日、福岡地裁小倉支部(田口直樹裁判長)が冤罪引野口事件・片岸みつ子さんに対して言渡した殺人・放火についての無罪判決について、福岡地方検察庁は、14日までに控訴を断念する方針を固め、近く最高検と協議したうえで最終的に決定する旨の報道がなされている。そもそもこの事件は、起訴の前提とされた事実自体が審理を通じて完全に崩壊した「空中楼閣」であって、無罪判決は当然であり、かつ検察がこの無罪判決に対して控訴する理由などは、刑訴法上からも一切存在せず、また一辺の道理もない。
日本国民救援会は、この事件の審理・判決で明らかにされた警察・検察の違法極まりない捜査手法と公判維持の姿勢を厳しく糾弾するとともに、あらためて検察が早期に控訴断念を確定することを強く要求するものである。

1 起訴の前提となる事実は、「冤罪の温床」として国の内外からつとに批判されてきた「代用監獄」を、驚くべき手法で「活用」した結果の捏造であった。
警察は、一貫して否認する片岸さんに対して、警察のスパイとなった同房者を送り込んで長期間同房させ、この同房者の「私は、片岸さんから、お兄さんを殺害したうえで放火したとの『犯行告白』を聞いた」という趣旨の虚偽供述を、客観的な裏付けなしに片岸さん自身の自白に準ずるものと位置づけ、検察も、これを事実上唯一、最大の証拠として起訴し、公判を維持したのである。実際、この同房者供述なるものは、「同房者自ら捜査側の意を酌んで積極的に捜査に協力する姿勢をみせており、…捜査機関が客観的な証拠を有している部分についてのみ不自然に詳細」(判決)という代物であった。このように、客観的な裏付け証拠もないままに、他人の虚偽供述だけで犯人とできるのであれば、捜査機関による「見込み」だけで、いつでも、誰に対しても「犯人製造」が可能になるであろう。判決が、「同房者を介して捜査機関による取調べを受けさせられていたのと同様の状況に置かれていたということができ、本来取調ベとは区別されるべき房内での身柄留置が犯罪捜査のために濫用されていたと言わざるを得ない」と指弾したのは当然である。

2 片岸みつ子さんの夫・片岸賢三氏は、みつ子さんが最初の別件逮捕をされた直後の2004年6月、取調べを苦に自殺している。警察から、みつ子さんが犯人であり、それを認めて自白を説得せよと、執拗に迫られており、その苦悩に耐え切れずに無念の自死に追いやられたのであった。そもそも、片岸さん一家は、実兄が殺害されたという点でまず被害者であり、さらに根拠なしに濡れ衣を着せられたことで二重三重の被害を受けたのである。このことを深く想起すべきは、何より検察ではないか。

3 冤罪の原因の一つとして、捜査機関の構造的な問題が今日いっそう広く指摘されるに至っている。この事件の経験は、その抜本的改善が急務であることを改めて重く提起した。
改善策の第一は、捜査における全過程の可視化(録音付き録画)である。これに対して近日、検察は、自己に都合のよい部分のみの一部可視化を試行しており、警察も、自民党の「一部可視化」の方針化を受けて、従前の頑なな拒絶から「検討」に傾いているとされるが、「一部可視化」では改善とはなり得ない。第二に、自白するまでは釈放しないという「人質司法」システムの廃止である。第三には、客観的捜査をおざなりにしたままで被疑者と「見込み」、自白を強要する自白中心主義を止めることである。こうして第四には、そもそもこのような違法捜査の温床たる「代用監獄」そのものの廃止である。さらに第五には、検察の手持ち証拠の公判前における全面的開示が不可欠である。
以上のとおり、日本国民救援会は、片岸みつ子さんに対する無罪判決について、検察の早期控訴断念確定を求めるとともに、上記の喫緊の改革を要求し、かつその実現のために奮闘するものである。

 
2008年3月15日
 
日本国民救援会中央本部
                               会長 山田 善二郎