「市民のための警察に」(2000年11月14日)

山田善二郎日本国民救援会会長の参議
院地方行政・警察委員会での参考人陳述

●日本国民救援会の歴史と警察

 私ども日本国民救援会は、天皇制警察の下、治安維持法その他、国民の自由と人権を抑圧する様々な法規と、特高警察によって加えられた弾圧犠牲者及びその家族を救援することを目的に結成され、今日まで七十二年の歴史を有しております。
 戦後は、アメリカ軍の占領下にあった時代に引き起こされた三鷹事件や、松川事件や菅生事件など数多くの弾圧事件や、死刑判決が確定して後も獄中から無実を訴えつづけ、ようやく再審無罪となった、免田、財田川、松山、島田その他多くのえん罪事件の犠牲者の救援運動を行っております。また、緒方靖夫氏宅電話盗聴をはじめ、警察の不法、犯罪的行為により被害を受けた方々が、責任追及と被害の救済を求めて提起した裁判を支援しています。警察の犯罪は、電話盗聴事件、不法監禁スパイ強要事件、少年暴行事件、果ては、長野県警本部の警備警察官の泥棒事件などなど、枚挙にいとまがございません。国民の生命、財産を守るべき責務を有している警察がその立場を悪用して引き起こす人権侵害は、人権侵害の最たるものであり、民主社会にあってはならない深刻な問題であるのであります。
 しかし、警察の対応や処置は不誠実の一語に尽きます。

●日本国民救援会の提言

 私どもは、警察が、真に国民のための警察に立ち返ることを願って、去る七月に開催した全国大会において、警察制度の民主的改革を求めて、(1)警備公安警察の廃止、(2)財政を含めた警察情報の公開、(3)警察オンブズマン制度の創設、(4)独立した事務局をもつ公選制の公安委員会による指導と監督権限の強化、(5)国会及び都道府県議会内に調査弾劾機関の設置、(6)キャリアシステムの廃止と警察官の団結権・団体交渉権の保障。以上六つの提言を採択しました。
 この決定にもとづいて総理府への要請署名運動を展開し、また、市民のための警察の実現を願う広範な市民団体と提携して、世論に訴えているところです。今日は、いくつかの問題点を申し上げる機会をいただきましたことに感謝申し上げます。

●自浄能力のない警察の体質

 申し上げたい第一は、自浄能力が欠如し、裁判の判決さえ無視する警察の体質の問題です。
 警察による電話盗聴事件の被害者である緒方靖夫氏と家族が提起した責任追及裁判について、東京地方裁判所が、警察の組織的犯行だとの判決を宣告したその前日、神奈川県警察本部の幹部は、「国も県も全面否認なのに、なにも話せるわけがないじゃないか。それが組織というものだ」「晴れてたって、気象庁が雨だと言えば雨なんだ。そして何年かたって、その日は雨だったということが、真実になるんだよ」と語っておりました。法治国家において、法を厳守すべき職責にある警察が、このように裁判所の判決さえ無視してはばからない言辞を吐いたのであります。
 ついで東京高等裁判所は、「憲法上保障されている重要な人権である通信の秘密を始め、プライバシーの権利、政治活動の自由などが、警察官による電話の盗聴という違法行為によって侵害されたものである点で極めて重大である」と厳しく警察の犯罪行為を弾劾する判決をしたのであります。通常の社会人であるならば、このような判決が出たならば、なによりも先に被害者に対して三顧の礼を尽くすでしょう。しかし警察当局は、いまだに被害者に謝罪の意志さえ表明しておりません。一般社会では考えられない対処の仕方です。
 その神奈川県警で、今度は県警本部長が、警察官が引き起こした犯罪のもみ消しのために、陣頭指揮を執っていたという事件が発覚しました。裁判所の判決さえも無視することを公言し、自浄の意思を持ち合わせていない今日の警察の転落の様とその行き着く先を、劇的に明らかにしたものでした。

●類似した二つの事件

 裁判の結果さえ無視する警察の体質を示す事例として、1978年、福岡高等裁判所が言い渡した、「直方スパイ調査事件」及び1988年、同じ福岡高等裁判所が言い渡した「芦屋派出所不法監禁スパイ強要事件」国賠請求裁判について紹介いたします。 先のスパイ調査事件は、福岡県警の現職警察官が、ある労働組合の幹部をしていた日本共産党の党員を金銭で籠絡してスパイとしていたことが発覚、共産党が数名の幹部による調査委員会を設けてその人物を調査したことを、不法監禁だとして弾圧した事件であります。
 福岡高等裁判所は、調査の動機、目的は正当であり、そのスパイが不誠実な態度であったが、調査の方法に社会通念に照らして相当性の範囲を超えた部分があったとして、懲役三ヶ月執行猶予一年を宣告しました。
 本件を審理した福岡高等裁判所の判決は、警備公安警察の違法行為を次のように厳しく断罪しています。すなわち判決は、「いまだ公安を害する事態や犯罪が具体的に発生するおそれのない日常生活においてまで、ある個人、団体に対し継続的、組織的、秘密裏に情報収集活動を実施することは、その手段、方法の如何を問わず、その個人、団体にとっては、不断の監視と探索の下に置かれ、いわれのない無形の圧力を受けることになり、その個人、団体が共有する憲法上の権利及び自由を不当に侵害され、かつおびやかされることになる……」「(警察情報活動が)適法であるといえるためには、その行為の動機、目的が警察法第二条一項の責務規定に含まれる正当なものであり、その必要性が具体的、客観的に認められる場合でなければならず……。」「いやしくも法律上に根拠を有する国家機関である以上、右活動に従事する警察官は社会的、倫理的に非難されるような手段、方法によることは許されない」「(日本共産党が)党規約に則って調査委員会を設置しそのスパイ容疑を追及しようとしたこと自体は、同党の結社の自由及び党員の思想、良心の自由を擁護するため、かつ組織防衛上当然の権利行使である」「本件警備情報収集活動は、その手段、方法において、社会的、倫理的に非難されるに値する不当なものであり、違法なものと言わざるを得ない」と、厳しく警察の不法行為を弾劾しています。
 ところが、同じその福岡県警の警備公安警察が、84年11月の深夜、帰宅中の民青同盟員であった川上誠一氏を、いわれのない道交法違反の容疑を口実に派出所に同行し、長時間にわたって二階の一室に監禁して、彼にスパイとなるよう強要した事件が発生したのであります。川上氏が提起した国家賠償請求訴訟を審理した福岡高等裁判所は、警備警察官が、交通違反を口実に、警察の派出所の一室にいれて、出入口を立ちふさいで退出できないようにし、彼の手を押さえつけて電話を架けさせず、窓を開けて大声で「助けてくれ」と叫んだが、実力で引き戻して押さえ込むなどして、執拗にスパイとなるよう「強要」したものと認定し、こうした行為が「違法であることは明らかである」と、厳しく批判しています。
 川上氏のこの事件は、公安調査局の調査官が身分を隠して川上氏に接触してきたその場を警備警察官がカメラで隠し撮りし、その上で先の方法で彼を監禁してその写真を示して「お前は公安調査庁のスパイだ。今度はおれ達の手先になれ」と強要した、極めて卑劣な事件なのであります。
 これらの事件から言えることは、警察は、裁判所の判決など全く眼中におかず、違法行為を繰り返している集団以外の何ものでもない、と言うことであります。

●独立した監察機関の確立を

 第二に、警察から独立した監察機関の確立が必要と考えます。
 神奈川県警本部長の「犯罪もみ消し事件」とほとんど同じ頃、新潟県警本部長らの「雪見酒事件」が発覚し、その後相次いで、警察官の怠慢により「善良な市民が殺害された事件」や、「捜査情報横流し」「警察官犯罪のもみ消し」などが、明らかにされています。心ある国民は、警察は、警察官としての自覚もなく、罪の意識や違法行為への反省心などを失った異常な感覚が、最高幹部から組織の全体に蔓延し、救いがたいところにまで及んでいるのではないかと憂慮しております。
 神奈川県警本部長が、一連の警察犯罪・「不祥事」を隠蔽し温存する役割を果たしたという事実は、警察の反社会的行為の是正を警察に求めることは、いまや不可能であることを示したのではないでしょうか。警察内部による監察・調査では、自浄作用は機能していないことが明らかになった以上、警察から独立した監察機関を設立することこそが、市民のための警察を実現する上で、必要不可欠であると考えます。
 警察犯罪・「不祥事」が絶えて止まないもう一つの原因は、警察の極端な秘密主義にあるものと思います。警察の機関紙といわれている「日刊警察」に紹介された、「不祥事対策」についての島根県警の昇進試験問題は、警察は秘密主義と犯罪隠蔽の教育を制度化していることを示すものでした。昨今のマスコミを賑わせている、警察による一連の犯罪行為「不祥事」は、警察全般にわたって、事件隠しを組織的にまた日常的に行ってきた、そのために溜まりすぎた膿が、いま、あふれ出てきたのではないかと思われます。

●警察の情報公開を

 第三は、警察情報を公開し、あるべき警察の姿を国民の前に明らかにすることです。
 本年度の『警察白書』には、国民の警察に対する信頼度が大きく低下していることが示されています。一連の「不祥事」などだけでなく、警察の閉鎖的で秘密的な体質に対する国民の批判と不満のあらわれというべきでしょう。緒方氏宅電話盗聴事件その他多くの裁判に出廷した警察官は、黒を白と言いくるめたり、「知らぬ、存ぜぬ」を繰り返したり、「捜査上の秘密」「言いたくない」などと証言して、真実発見に非協力の態度を貫きつづけました。
 警察の予算の執行状況、組織とりわけ警備警察の配備状況、教育や人事など、警察の実態は、国民の前に明らかにされていません。このような警察の秘密主義が、警察の腐敗を生み出す要因の一つにもなっているのだろうと思います。そこで、国民の信頼を回復するためには、警察の組織と活動を国民の前に明らかにすることが重要であると思います。そのためには、情報公開は不可欠であり、これこそが、国民から疎んぜられている警察から国民に親しまれる警察への第一歩となるものと確信します。
 情報公開の対象機関に警察を加え、個別の事件の捜査情報を除いて、警察の組織、実態、予算の執行状況などの情報を公開すべきであると思います。

●警備公安警察偏重の解消を

 第四は、警備公安警察偏重の警察制度を改める問題です。
 秘密主義が警察に蔓延する最大の理のは、国民の生命や安全を守る刑事警察などよりも、警備公安警察偏重にあると、多くの識者は指摘しています。緒方氏宅電話盗聴事件では、警備公安警察の中には、公安四係という秘密警察中の秘密警察までもが存在していることも明らかとなりました。
 憲法、警察法、刑法などを無視して、革新政党や労働組合、民主的市民団体などを「敵視」して、スパイ、盗聴などの犯罪的行為を重ねている警備公安警察は廃止し、国民の安全のための警察に改めていくことが肝要であると考えます。

●警察から独立した公安委員会

 第五に、警察から独立した公安委員会を求めます。
 本来、警察を管理すべき公安委員会は、これまで、全くと言っていいほど機能してきませんでした。公安委員会は、警察に推薦され人々のみによって構成されています。警察法第五条は、国家公安委員会は警察庁を管理すると規定しています。がしかし、実務を担当する部屋もなく、現職警察官が事務局となって実務を行っています。これでは、公安委員会は警察に管理されているといわれても致し方ありません。
 そこで、公安委員の選任方法を抜本的に改めて、国民の前にガラス張りにすること、そして、警察から独立した事務局体制を確立し警察監察の権限を強化することが必要であると考えます。警察制度の民主的改革は、わが国の民主主義の将来にかかわる極めて重大な問題です。わが国の警察制度が抜本的に改善されることを願って陳述を終わります。
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