日本国憲法、国際人権規約の人権保障の原則に則った
日本の拘禁施設の抜本的な改革の提言を求める要請書

                                                                       日本国民救援会

 行刑改革会議  
  宮沢弘座長ほか委員  各位


はじめに
日本国民救援会、再審・えん罪事件全国連絡会は、免田、財田川、松山、島田の4事件をはじめ、数多くのえん罪事件の救援運動にとりくみ、現在も支援活動を進めています。また、最近では東電OL殺人事件など外国人のえん罪事件についても支援を行っています。
私たちはこれらの運動のなかで、日本における被拘禁者の処遇について憲法・国際人権規約に保障された国民・人の権利が侵害された状態にあることを確認し、法務省や当該拘禁施設に対して被拘禁者の処遇の改善を強く求めてきました。しかしながら、再三に及ぶ要請にもかかわらず、面会や通信の自由の拡大をはじめ、それらは一向に改善されていません。
名古屋刑務所での暴行事件をきっかけにして、日本の非人間的な刑務所の実態が国民の前に明らかにされ、法務省は、やっと「行刑改革会議」を設置して、国民の批判に答えざるを得なくなりました。この間、「行刑改革会議」の委員のみなさんが、日本の刑務所の改革について真摯に検討を行っていることに敬意を表します。
「行刑改革会議」の次々回の会議からは、最終提言の骨子についての検討を行うこととなっており、この検討と提言においては、日本国憲法、国際人権規約の人権保障の原則に則って日本の拘禁施設の抜本的な改革の方向を示されることを期待して、下記の基本的諸点について強く要請するものです。

1、面会、通信の発受の問題について
未決拘禁者は、文書発信を1日わずか2通に制限され、確定囚も親族以外の面会や手紙のやり取りは厳しく制限されています。これは、明らかに「通信の自由」を抑圧するものであり、えん罪の人にとっては無実を訴える「表現の自由」を侵すものです。とくに、「無罪の推定」を受ける被告人の場合は、被告人の権利をも奪うものです。
面会についても、どこの施設でも収容定員を大幅にオーバーしていることもあり、被拘禁者については面会時間の制限、刑務官には労働強化の負担となっています。これらは刑務官の増員とともに通信の自由や面会を原則として自由にすることで抜本的な改革が早急に求められています。
また、既決となれば親族以外の面会ができなくなり、友人・知人による面会などができなくなり、社会との関係が絶えてしまいます。受刑者といえどもいずれ社会に復帰させるという矯正施設の目的からしても、現在の監獄法(第9章 接見及ヒ信書)における制限規定は撤廃し、面会、通信の発受は原則自由とすべきです。

2、死刑囚の処遇について
 死刑囚の場合も、親族以外の者との手紙のやりとり、面会が著しく制限されています。例えば、名古屋拘置所に収監されている死刑囚の奥西勝氏と、東京拘置所に収監されている死刑囚の袴田巌氏は、『死刑確定者の接見及び信書の発受について』(法務省矯正局長通達、矯正甲96号)の「心情の安定」という抽象的で、不可解な理由を口実に、親族以外の者との親書の発受、面会、差し入れ等がいちじるしく制限されています。これは、明らかに「死刑囚の処遇を未決囚に準ずる」とした監獄法第9条の規定にも違反しています。このように、通達が法律より優先されているもとで実際の処遇が行われています。

3、医療問題について
被拘禁者の医療問題も深刻です。被拘禁者が体調不良を訴えても、現場ではなかなか相手にされずに、適切な治療が遅れるという問題があります。例えば、袴田巌さんの場合は、親族から医療刑務所での治療を強く求めても手立てをとろうとしていません。
かつて、無実を訴えていた三鷹事件の死刑囚・竹内景助氏は、東京拘置所における適切な医療処置を怠ったことが原因で病死しました。この件について竹内氏の家族が東京地方裁判所に損害賠償請求の訴訟を提起し、東京地方裁判所(昭和49年5月20日東京地裁民事二部)は、「・・・・死刑の言渡し受けた者の医療についても、その拘禁が死刑執行を待つための者であるという特殊な状況にあるからといって、医学の水準を下回るような処遇を許容しているとは到底考えられないから、拘禁機関の行う診療行為が医学の水準に照らして不当又は不合理なものである場合には、当該診療行為には過誤が存在し、その処置は違法というべきである」として、遺族に対し損害賠償の支払いを命ずる判決を言い渡しました。
この判決は、いまから約30年前に出されています。しかし、日本の刑務所ではこの判決の重みが全然いかされていません。
法務省は、私たちの度重なる要請に対して、「各施設には常勤の医師がおり、適切な医療行為が行われている」との答弁を繰り返してきました。しかし、この間の国会などでの審議のなかで「常勤」と言いながら、実際には毎日常駐していないことも明らかにされています。こうした劣悪な状況は速やかに改善すべきです。


4、外国人の処遇について
 国際化の流れのなかで、外国人の収容者も年々増加をしています。しかし、上記の日本人の被拘禁者にもまして外国人の処遇は遅れています。
 形式的には、面会、通信の発受については日本人と同じような制限のもとにありますが、実際には通訳や検閲などで制限を受けて、実質的な権利が侵害されています。例えば、母国語同士で会話する面会は原則として禁止されています。通訳を立ち会いに認められて面会できたとしても、通訳の費用を負担しなければなりません。日本に身よりのない外国人の場合には、通訳の手配や費用負担などを考えれば、事実上面会は不可能と言うことになります。
 さらに、刑が確定すると、いっそう制限が厳しくなります。はるばる遠い故国から日本に、親族が面会に来ても母国語での面会が禁止され、お互いに顔をにらめっこして面会を終えたケースも報告されています。

5、被拘禁者の人権救済と苦情を処理する政府から独立した第3者機関の創設
 上記のように被拘禁者は著しく非人間的な処遇の状態に置かれています。こうした状況を是正しようとすれば、名古屋刑務所での暴行事件のように施設側から違法・不当な仕打ちを受けることを覚悟しなければならず、結局泣き寝入りするしかありません。しかも、違法な懲罰を受けたら、ときには生命の危険を覚悟しなければならないほどに現状は深刻です。
 また、名古屋刑務所の暴行事件について、当局は当初、「制圧は正当な職務行為に基づく措置だった」と説明を行い、事件発生後ただちに十分な調査・対応をしませんでした。当時、森山法務大臣は、「全国の施設を調査したが、問題はなかった」とコメントを発表しています。ところが、その後も岡山刑務所など各地で同種の事件が発覚しました。このように、一連の事件を検証すれば、刑務所内部で起きた人権侵害に対し、法務省や刑務所当局が事実を明らにし、すみやかに人権侵害の救済を行うことに期待することは極めて困難であることが示されました。したがって、政府から独立した第3者機関による人権救済、苦情処理機関の創設が必要です。
 また、拷問等禁止条約の批准に際して、政府は第22条の個人通報制度の受諾を留保しています。政府部内において必要な措置をとり、早急に受諾を宣言することが求められています。

6、刑務所職員の労働条件の改善と増員を
 刑務所内での人権侵害の起きる背景として、刑務所職員の人員不足による労働強化などの問題が指摘されています。私たちは、職員の権利の拡大と労働条件の改善、大幅な人員増を求めるものです

結 び
このような実態に対しては、国際的にも厳しい批判が出されています。1998年11月に採択された国連自由権規約委員会による最終意見では、「死刑確定者の拘禁状態について深刻な懸念を有する」、「訪問や通信の過度の制限などは規約に違反すると理解する」とし、刑務所における処遇についても、「・・・・過酷な所内規則、過酷な処罰手段の使用、処罰に関する公正な手続きの欠如、受刑者による申し立てについて調査するためのシステムの欠如」などについて、「深い懸念を抱いている」と厳しく批判し、改善を要求しています。
しかし、この勧告も無視されたままで、被拘禁者にたいする処遇は、いまだに是正の措置が講じられていません。
私たちは、あらためて、「行刑改革会議」の提言においては、日本国憲法、国際人権規約の人権保障の原則に則って日本の拘禁施設の抜本的な改革の方向を示されることを期待し、とくに下記の点についての抜本的な改革提言をおこなうように強く要請します。

1. 日本国憲法や国際人権規約を遵守し、被拘禁者の信書の発受、接見の自由など、被拘禁者の権利を大幅に拡大すること。
1. 「死刑確定者の接見及び信書の発受について」(法務省矯正局長通達、矯正甲96号)を撤廃し、死刑確定者の処遇を抜本的に改善すること。
1. 被拘禁者の健康保持に留意し、当事者および家族が求める場合、当事者らの希望する外部の医師の、国費による診断を認めること。
1. 外国人の処遇についても、実質的に権利が行使できるように改革をおこなうこと。
1. 被拘禁者の人権救済と苦情を処理する政府から独立した第3者機関を創設すること。
1. 刑務所職員の労働条件の改善と増員をはかること。

2003年12月3日
                 日 本 国 民 救 援 会
                 再審・えん罪事件全国連絡会

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