2021年9月15日号
2021年9月15日号
布川国賠 再び勝訴 東京高裁
冤罪を作り出した警察と検察を断罪
強盗殺人犯とされ、無期懲役刑を受け、２９年間を獄中で過ごし再審無罪となった茨城･布川事件の桜井昌司さん。その桜井さんが警察と検察の責任を追及している国賠裁判で、東京高裁（村上正敏裁判長）は８月27日、警察･検察の訴えを退け、一審の勝訴判決を維持し、警察官･検察官の取調べは違法であったとして、国と県に約7400万円の賠償を命じました。冤罪を作り出した警察･検察を再び断罪しました。
判決後、桜井さんが裁判所から出てくると支援者から大きな拍手と歓声があがりました。桜井さんは、「判決を聞きながら初めて胸が一杯になり、涙が出そうになった｡『そうなんだよ。これが俺たちの事実なんだよ』と思った」と話し、目を潤ませました。
「全面勝訴の判決」
高裁判決のポイント
布川国賠では、一審・東京地裁が、警察官による自白の強要や検察官による証拠隠しを違法と判断。これを不服として、警察・検察は違法な取調べも証拠隠しもしていないと東京高裁に控訴、弁護団は一審が認めなかった検察の捜査・起訴の違法性を訴えました。今回の判決について、谷萩（やはぎ）陽一弁護団長は「全面勝訴判決」と判決後の報告集会で述べています。判決を詳しくみていきます。
一審勝訴判決を追認
判決は、警察・検察の主張を認めず控訴を棄却（賠償額は変更）し、一審勝訴判決を追認しました。
一審判決では、次の点で警察・検察の違法を認めました。
�〃抻ヾ韻郎�井さんに嘘を言って取調べをおこない、裁判で嘘をついた。
��検察官が証拠を隠した。
とくに、�△両攀魃�しについては、検察の証拠開示義務を認める画期的な判断をおこないました。
高裁は、検察の起訴や訴訟活動等については、「判断するまでもなく」、自白の強要など違法行為があり、それがなければ起訴もされなかったとして、直接の判断をおこないませんでしたが、証拠開示義務については一審の判断を覆（くつがえ）すこともしておらず、一審を追認したものです。
検察の取調べも違法
桜井さんと共犯とされた杉山卓男（たかお）さんに対する取調べについて、高裁は、一審が認めた警察の取調べにくわえ、検察の取調べについても違法であったと認定しました。
具体的には次のように判断しています。
〈警察官の取調べ〉
判決では、警察官の取調べについて、長時間にわたり厳しく追及し、「目撃者がいる」、「ポリグラフ検査で（否認した）供述はすべて嘘であった」などと虚偽の事実や､｢やったことはしかたないから早く素直に話せ」と母が言っているとの捏造（ねつぞう）した内容を、桜井さんに伝えことを認定。自白をさせるために「虚偽の事実を述べて強い心理的動揺を与えるもの」であり、そのもとで虚偽の自白をしたと判断。また、空腹を訴える桜井さんにまんじゅうを買い与えて自白を誘導したことも認定。
〈検察官の取調べ〉
検察官による取調べついては、検察官が、否認する桜井さんの供述を認めずに、アリバイについて虚偽の事実を告げて高圧的な態度で自白を迫り、それが、犯行をしていないとどれほど言っても決して信じてもらえないとの絶望的な心理状態に、桜井さんを追い込んだと認定。検察官の自己の意図するまま、（有罪方向になるよう）客観的事実と矛盾しないように桜井さんの自白供述を変えさせたと認定しました。
そのうえで、裁判所は、このような取調べが「社会的相当性を逸脱して自白を強要する違法な行為であることは明らか｣であり､不法行為と断罪しました。
〈杉山さんの取調べ〉
裁判所は、桜井さんへの取調べが違法でも杉山さんへの取調べが適法であれば起訴も適法となる余地があるとして、杉山さんの取調べについても検討。
その結果､検察官が、裁判官もいる法廷で杉山さんに対し「言ってないと言うんだったら証明しろ」と、立証責任が検察官にあることを無視するかのごとき高圧的な態度を示したことからも、桜井さんや杉山さんへの取調べでも高圧的だったと推認できると判断。検察官の取調べの不法行為を認定しました。
裁判所は、桜井さんと杉山さんの自白がなかったとすれば、逮捕も身柄拘束も起訴もされることはなく、有罪判決で刑の執行を受けることもなかったと、警察・検察を厳しく断罪しました。
支援の意義を認める
判決では、支援の意義も認めました。
損害賠償にかかわって、弁護団は、桜井さんが仮釈放後、強盗殺人犯として偏見を受け、就労の機会が制限されたと主張。これに対し、県は、収入が減少したのは再審準備のために活動していたもので、就労の機会は制限されていなかったと反論しました。
これに対し裁判所は「自らの無罪を訴えて再審請求をする者が、弁護士に再審請求の法的手続を依頼するだけにとどめず、多くの市民から支援を受けるための活動をすることはしばしば見られることであり、そのために就労の機会が制限されることも、控訴人ら（警察・検察）の違法行為によるものと扱って差し支えない」として、県の主張を退けました。
冤罪生まない司法を
判決を受け、支援する会と国民救援会、再審・えん罪事件全国連絡会が連名で声明を発表しました。
声明では、�仝〇 Ψ抻，蓮∈�井さんに謝罪すべきである、��国や県は冤罪を生まないように法制度、証拠隠しを許さない制度、すべての証拠を開示する制度を確立せよ、��少なくとも再審で警察・検察の全証拠を開示させるなど再審法の改正を、と訴えました。
今回の判決を力に、警察・検察の違法を追及する国賠裁判の勝利、冤罪を生まないための刑事司法制度の改革、再審法の改正をめざして、とりくみを強めましょう。
＊判決を書いた裁判官 裁判長・村上正敏、遠藤浩太郎、板野俊哉
布川国賠裁判
1967年８月28日、茨城県利根町布川で発生した強盗殺人事件で、桜井昌司さんと杉山卓男さん（2015年に死亡）が逮捕、不当な取調べで作られた嘘の「自白」で起訴、78年に無期懲役が確定。その後、第１次再審は認められず、第２次再審で、2005年に水戸地裁土浦支部で再審開始決定（09年最高裁で確定）。11年、水戸地裁土浦支部において再審裁判で無罪（確定）。同年、桜井さんが検察(国)と警察（茨城県）の責任を追及し国賠を提訴。19年、東京地裁で勝訴。国・県が控訴したため、桜井さんが附帯控訴。
桜井昌司さん
当たり前のことが認められるまでに５４年も…
判決後におこなわれた報告集会での桜井昌司さんの発言を紹介します｡(文責･編集部)
これまで何度も判決を聞いてきましたが、今日の判決ほど、胸がすくというか、杉山と私が５４年前に警察や検察にされた事実をそのまま認めてもらったということであんなに心安らかになったというのは初めてでした。途中でちょっとうるっときました。
当たり前のことが当たり前に認められるのに５４年もかかった。この５４年というのはすごいなと感慨をめぐらせながら判決を聞いていました。
誤り正せる国に
勝つのはうれしいんですよ。勝って検察官の懐（ふところ）が痛むんですか。何も影響ないじゃないですか。これ何なんだろう。勝っても怒りがわいてくる、これ不思議ですよね。
勝っても、何も痛まない人たちが私たちは正しかったんだと平然と言い続ける。やはり私たちはどこかでこの誤りをきちんと正せるような国にしなくてはいけないのでは。
私自身は２年ほど前にガンを患いました。今日、誰もが冤罪を受けないようなシステムをつくるために、やはり私は生きている限り、これからも頑張ろうと思いました。
救援会と出会い
国民救援会と出会っていろんな人のご支援をいただいて、今日まできました。その年月を思いますと、自分は天命を与えられたと弁護団に言われたんですが、いまあらためて思います。
布川事件の桜井昌司は冤罪を背負う中で、なすべき何かを背負っているんじゃないかとあらためて思いました。
これからもがんばりますので、廣津和郎さんと同じことを言いますが、この日本を道理が通る国にするために力を貸して下さい。今日は本当にありがとうございました。
デジタル庁いらない９・１行動
国民総監視許さない
デジタル庁発足に抗議
デジタル庁が発足した９月１日、デジタル庁が入る東京・千代田区の東京ガーデンテラス紀尾井町の前で「個人情報を一網打尽！デジタル庁はいらない９・１行動」をおこない、５０人が参加しました（国民救援会も参加する共謀罪ＮＯ！実行委員会や戦争させない！９条壊すな！総がかり実行委員会など５団体共催）。
菅政権の肝入りで今年５月に成立したデジタル監視法。この法律は、�．泪ぅ淵鵐弌爾鮗瓦砲垢戮討旅駝韻慮朕余霾鵑鮃颪�一元的に管理する、��国と地方自治体のシステムの統一化によって自治体が国の出先機関に、�９颪篌�治体で集めた個人情報を民間企業の儲けのために利活用できるなどの仕組みをつくるものです。
行動では、各団体の代表が訴えをおこないました。国民救援会からは岸田郁事務局長が訴えに立ち、「国会でも十分な審議がなされないまま、数の力で押し切って成立させてしまいました。菅政権は、『だれ一人取り残さない、人にやさしいデジタル化』をうたいますが、だれ一人取り残さず個人情報を網羅し、国家集中による国民総監視をしようとするものです。本当に国民にとって大事な『デジタル化社会』とは何かを今一度考えてほしい。私たちは、権力による監視を許さないため、引き続き行動します」と訴えました。
岡山・倉敷民商弾圧事件
北海道、東北代表が要請
８月１８日の午後、岡山地裁に対し倉敷民商弾圧事件禰屋裁判の無罪判決を求める要請を禰屋さんをはじめ２１人（北海道２人、秋田１人､宮城１人､岡山１７人）で４０分間行いました。個人署名は、当日分３６４３筆、累計１７万４０５０筆となりました｡要請では禰屋さん､北海道２人、秋田､宮城､岡山３人の８人が裁判長宛の要請書を読み上げて提出。また、参加できなかった東北・関東の県本部の要請書を横田総務課長に手渡しました。
禰屋さんは、「裁判長、検察に対して起訴の取り消しを示唆していただきたい。差戻し審では、私と弁護団が求める証人・証拠を採用すること。公平・公正に審理し無罪判決を求める。国民の権利として、裁判長に面会を求める」と力強く読み上げて提出しました。
課長に対して、「８枚の要請書は裁判長に渡しますか」、課長は「はい、渡します」と回答。また「８月４日７９回目要請の要請書７枚は、いつ裁判長に渡したのですか」、課長は「８月６日です」と回答。その後、裁判長との面会を求めましたが、「刑事訴訟法に手続きがないため出来ない」「開かれた裁判所ならば、被告人、支援者の声を聴くべきではないか」と平行線になりました。
要請終了後、参加者は大雨の降るなか、マイクで力強く訴えました。（岡山県本部・竹原正樹）
静岡・袴田事件
検察官主張に矛盾
裁判所、検察、弁護団で三者協議 東京高裁
再審請求をめぐる審理が続いている静岡・袴田事件で、裁判官、検察官、弁護団による差戻し審の三者協議（第３回）が８月３０日、東京高裁（大善文男裁判長）で開かれ、検察官が過去の主張と矛盾する意見書を出したことがわかりました。
事件の争点は、１年２カ月も味噌タンクに隠されていた袴田さんの犯行着衣とされる５点の衣類の血痕の色です。衣類には血液の赤みが残っていましたが、弁護団の実験によれば、様々な条件の下でも、味噌に漬ければ数週間で血痕が赤みを失い褐色化（メイラード反応）することから、弁護団は５点の衣類は発見直前に味噌タンクに入れられて捏造されたものだと主張していました。
検察官が７月３０日付けで出した意見書は、味噌の色が薄かったため、血液の褐色反応が進行しなかったとするもので、食品衛生学の専門家２人に意見を聞き取った内容が根拠となっています。ところが、検察官が差し戻される前の審理で出した中西意見書では、血の付いたＴシャツを味噌に漬ける実験の結果、薄い色の味噌でも１カ月で血液が赤みを失っていることが分かっており、最高裁も「３０日後は赤みが感じられない」と認めています。
協議後に会見した弁護団は、検察官は２人の専門家に意見聴取する際に、中西意見書を示していないと見られ、中西意見書が検察の主張に矛盾する証拠として残ることになると述べました。
弁護団は、今回の検察官意見書に対する反論書を１０月末までに提出します。次回協議は１１月２２日です。
事件は、勤務していた味噌会社の役員一家４人を殺害したとして死刑判決を受けた袴田巖さんが再審請求しているもので、再審開始決定を取り消した高裁の判断は審理不尽として、昨年１２月に最高裁が差戻し決定をしていました。
土地利用法廃止求める運動スタート
際限なく調査・監視が
国民監視・土地利用法廃止を求める運動スート学習集会が８月２７日、衆議院議員会館で開催され、オンラインを含め１２５人が参加しました。主催は、国民監視・土地利用規制法の廃止を求める共同行動（国民救援会、憲法共同センター、憲法会議、自由法曹団、全国革新懇、平和委員会、国民大運動実行委員会、全商連、安保破棄中央実行委員会）。
今年６月に成立した土地利用法は、政府が指定した「重要土地」（基地や原発など）や国境離島等について、その機能を阻害する行為を防ぐためとして、近隣の住民などを警察などの協力も得て調査・監視するものです。
集会では、日本共産党の山添拓参議院議員があいさつ。馬奈木厳太郎弁護士が記念講演をおこない、「調査対象・内容・手法などに国会の関与もないため、際限なく調査できてしまう。恒常的な調査にくわえ、密告もすすむ」と法律の危険性を指摘しました。
集会では、土地利用法は、秘密保護法、共謀罪、安保法制などとともに「戦争する国」の一環であり、廃止しようとの発言がありました。
最後に、廃止にむけてリーフの普及・学習をすすめ、各団体のとりくみを基本に共同行動をすすめるとの提起がされました。
名張事件第10次再審（最高裁）署名用紙
