2021年4月25日号
2021年4月25日号
再審法改正をめざす市民の会 第６回ＷＥＢセミナー
日本・台湾・韓国の再審法の現状と課題（上）
３月１３日に開かれた再審法改正をめざす市民の会第６回ＷＥＢセミナーを要約して２回に分けて紹介します｡報告は､日弁連人権擁護委員会再審法改正特別部会長の鴨志田祐美弁護士、龍谷大学犯罪学研究センター招聘研究員の李怡修さん、関西学院大学法学部（当時・青山学院大学助教）の安部祥太さん（次回登場）です。
検察は公益の代表者 審理に協力する立場
鴨志田 日本は三審制により、１つの事件について３回裁判を受けるチャンスはありますが、それでも間違いがあった場合に、確定した裁判をやり直すという手続きが再審手続きです。再審の手続きには２本のハードルがあり、一つは裁判のやり直しを決めていく、再審請求という手続き（１本目のハードル）。再審請求で裁判のやり直しをすることが決まり、そのあとのやり直しの裁判、ここで有罪か無罪かを決める、これが再審公判という２本目のハードルになります。この再審公判で無罪判決が確定して、はじめて無実の人が再審無罪となります。
どのような場合に再審請求が認められるかについては、刑事訴訟法４３５条１号から７号まで規定があるのですが、もっとも多く適用されているのが６号で「無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見したとき」に裁判のやり直しが認められるということになっています。
これに関して最高裁は１９７５年に有名な白鳥決定を出しています。これは新証拠だけで無罪となるような強力な証拠でなくても、もしこの証拠が確定判決が審理されている裁判所に提出されていたならば、果たしてその確定判決でなされたような事実認定に到達したであろうかという観点から、当の証拠（新証拠）と他の全ての証拠とを総合的に評価するという考え方を示しました。そしてこの新証拠の明白性の判断にも「疑わしい時は被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則が適用されるということを高らかにうたったのが白鳥決定でした。
この白鳥決定が出てから日本では８０年代に４件の死刑事件で再審無罪判決が確定し、日弁連も法改正に向けて提言してきました。しかしその後、再審開始が激減してしまい、再審法改正運動も低調になりました。
ですが２１世紀になって次々と再審開始決定が出されて、現在再審は非常に活況を呈しています。一方、無罪になるにはまだまだ時間がかかっている現状があります。
証拠の開示と検察上訴禁止
５２０条もある刑事訴訟法の中で再審の規定はわずか１９条しかなく、審理手続きについては４４５条の、事実の取り調べができるという、この１つの条文があるだけです。大きな問題は２つです。
一つは証拠開示です。通常審の場合は、被告人にとって有利な証拠（無罪方向の証拠）も不利な証拠（有罪方向の証拠）も、税金を使って捜査機関が圧倒的な証拠収集能力によって証拠をさらって行きますが、検察官は有罪立証のための証拠しか裁判所に提出しません。これを見て裁判所は有罪判決を書いていくわけです。
再審段階で請求人、弁護人が新証拠を提出するとともに、捜査機関には無罪方向の証拠がまだまだあるはずだと、裁判所に証拠開示を求めていきます。このときに証拠開示勧告をやるかどうかというのは条文にはないので、結局のところ裁判所のさじ加減次第になっています。これが「再審格差」と言われる問題です。
二つ目の問題は、裁判所が再審開始決定を出しても検察官が不服申し立てをしてくるということです。一応刑訴法４４８条によれば再審開始決定に対しても不服申し立てをすることができることになっています｡しかし､検察官の抗告は｢当然｣のことなのでしょうか。
刑訴法の条文は戦前のものとほとんど変わっていないのですが、日本国憲法の制定によって大きく変わったところがあります。憲法３９条に二重の危険の禁止という規定が入ったことにより、既に無罪とされた行為、同一の犯罪について「重ねて刑事上の責任を問われない」ことが人権として保障されました。
戦前の刑事訴訟法では不利益再審と言って、間違って無罪となったが、実は真犯人だったという人に対しての再審が認められていました。しかし、これは先ほどお話しした憲法の二重の危険に明らかに抵触してしまうので、現在は不利益再審だけは廃止されています。ということは、再審は無実の人を救うという目的に特化された制度となったわけです。検察官は有罪を立証する当事者ではなくて、裁判所が無実の人を救うためにだけ審理をする手続きに、公益の代表者として協力をする立ち位置でなければならないはずです。
元々日本がお手本にしていたドイツの刑訴法では、再審開始決定に対する検察官抗告を１９６４年、つまり今から半世紀以上も前に改正して禁止しています。日本はこのままでいいんでしょうか、というのが私の問題提起です。
台湾で２回の法改正 手続、証拠開示明文化
李 台湾の刑訴法の再審規定は日本と似ています。これまで２回法改正がおこなわれました。
１つ目の改正は２０１４年で、再審事由の難易度を下げました。それまでは刑訴法４２０条１項再審請求事由の第６号に「有罪判決を受けた者に対して無罪、免訴、刑の免除もしくは原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき確実な新証拠を発見した時」と規定されていました。
問題となった文言は､｢確実な｣､｢新証拠」という部分です。「確実な」というのは日本語でいえば「明白性」、要するに証拠の価値を単独評価しなければならないのか、白鳥決定のように総合評価していいのか、長年議論されていて９０年代以降は判決の中に日本の白鳥決定という文言を入れて参考にして段々総合判断も入れるようになったんです。でも裁判体によって単独評価することもあれば、総合評価することもあり、安定的ではないのはすごく問題です。
そして新証拠の「新」の意味は、確定判決の前から既に存在したものでないといけないというのです。われわれの考えでは新証拠は確定判決のあと、たとえば新たなＤＮＡ鑑定があって、新たな証拠が出たら、それは新証拠と考えています｡しかし､条文はすごく裁判官の立場から物事を考えており、確定判決のあとに生じた証拠は裁判官は預言者でもないので、見ることができなかったものであり、裁判官が間違えて判断したものではない、なので新証拠と言えないという論理。すごくおかしな論理なのですが、改正前は必ず、確定判決以前に存在していた証拠でなければいけなかったんです。これは新たな科学鑑定などが出てきた場合に問題です。
また、新証拠のうち証拠能力の評価ですが、再審の場合は証拠とまで言えなくても事実であっても、あるいは資料であっても、それでも再審請求してダメなのかと言われ続けていました。
２０１４年の法改正により、この３つの問題は解決されました。
新事実発見も再審請求可能
まず４２０条１項６号「発見された新事実又は新証拠によって、単独判断し、又は前の証拠と総合判断することにより、有罪判決を受けた者は無罪､免訴､又は原判決より軽い罪名を受けるべきと明らかに認めることができる時」。「新事実」も入ったし、明白性については単独判断、または総合判断と明文化しました。
さらに４２０条３項を新設し、「第１項第６号にいう新事実又は新証拠は、判決確定前に存在し、又は成立していたが調査はしていなかったもの、若しくは判決確定してから存在し、又は成立していた事実や証拠のこと」としました。
次に１９年の改正では、再審手続きが具体化されました。�（杆鄂佑和緲�人として選任できるということを明文化。��記録情報獲得権を明文化。つまり証拠開示、証拠閲覧は再審請求人の権利だということが明文化されました。��再審請求審は原則的に公判廷を開くこと。それまでは口頭弁論がなかったので、当然証拠調べもなく、請求人あるいは弁護人、検察官、裁判所、法曹三者どの立場からもこれは怪しいなと思うところを調べることができることが明文化されました。
刑訴法以外の法改正もあり､16年に｢確定後ＤＮＡ鑑定に関する法律｣が成立しました｡きっかけは台湾イノセンスプロジェクト（台湾ＩＰ)の雪冤第1号･陳龍綺さんの事件。性犯罪事件ですが、１４年に検体の試料が残されていたことにより、ＤＮＡ鑑定によって雪冤されました。台湾ＩＰが民間の弁護士団体と一緒に草案を作って国会議員に提出。議員立法という形で提案し、国会で可決して１６年１１月に成立しました。今後の課題は陳さんの事件はたまたま検体試料が残されていたから鑑定出来たけれど、この法律があっても試料が残っておらず鑑定できない事件もあり、これからの課題になります。
追伸として、台湾でも全てが再審開始というわけではありませんが決定が出るのは早い。その理由は標準処理期間という、裁判所の内部規則があるからです。これによると再審請求は請求されてから８カ月以内に必ず結論を出さなければならないということになっています。そうでなければ担当裁判官は院長(裁判所の長｡台湾では裁判所を「法院」という）から注意されたりするので、そんなに長くかかることはありません。
（次号に続く）
静岡・天竜林業高校成績改ざん事件
北川さんの再審請求を棄却
裁判所が検察の代弁者に――弁護団が批判 東京高裁
天竜林業高校成績改ざん事件で東京高裁（平木正洋裁判長）は、３月３１日付けで北川好伸さんの再審請求を棄却しました。弁護団は最高裁に特別抗告しました。
事件は２００６年、天竜林業高校の校長だった北川さんが、通学していた当時の天竜市長の孫の大学推薦入試に関わる成績調査書の改ざんを教員らに指示し、見返りに現金を受け取ったとされるもので、虚偽有印公文書作成、加重収賄などの罪で懲役２年６月・執行猶予４年、追徴金２０万円の有罪判決が確定していたものです。１４年に再審請求するも棄却され、即時抗告していました。
弁護団は、孫の成績改ざんを依頼し、謝礼に２０万円を渡したと供述したのは捜査官に強要された嘘で、「改ざんの依頼もしていないし、お金も渡していない」とする元市長の新証言と、警察の違法捜査が記録された元市長の捜査報告書（地裁段階で開示）を新証拠の柱としました。決定は、「（元市長が）自己保身で否認することは自然で、認否を繰り返し変遷させるのは理解できる」などとして供述に虚偽の疑いはないと判断。元市長の当時の弁護人が、贈賄を認めれば罰金刑で早期釈放できるとして自白を促した捜査報告書の記載も無視しました。また弁護団が、改ざんをおこなった教諭を聴取した録音テープや調査書データが保存されたディスクの開示を求めていましたが必要ないと退けられました。
東京高裁は４年半、一度も三者協議を開かず、検察に捜査報告書の意見を求めることもしませんでした。会見で海渡双葉弁護士は、「裁判所が検察に成り代わって決定を書いたようなもの」と批判。北川さんは、「裁判官が恣意的に書いた決定。屈せず最高裁でたたかう」と決意を述べました。
群馬・年金引き下げ違憲訴訟
削減に違法性なし
「憲法２５条に違反」と控訴 前橋地裁
群馬年金裁判の判決が３月４日に前橋地裁で出されました。裁判所前に１２０人以上の原告、支援者らが集まり、「年金引き下げは違憲」と期待しましたが､不当判決です｡
２００１年から３年間、物価が下落しても国は「高齢者の生活や景気を考慮」して年金を引き下げず据え置く措置(特例水準)をとりました。ところが１２年に特例水準を解消し、年金引き下げを決定、段階的に支給額を削減。高齢者の生活を無視し「健康で文化的な生活保障｣(憲法２５条）に違反します。４８人の原告は、即時控訴で応じました。
（女屋定俊）
米・ムミア事件
ムミア６７歳に
コロナ感染とたたかう
１９８１年、米国フィラデルフィアの路上で起きた白人警官射殺事件の犯人として終身拘束の刑を受け、日本でいう再審を求めているアフリカ系米国人の反体制ジャーナリストムミア･アブ･ジャマールは２月、収容施設から心疾患で病院に搬送されましたが､その後､施設に戻され新型コロナウイルス陽性と発表されました。
今月、兵庫大学のマイケル Ｈ・フォックス准教授に届いたムミアのメールは「Ｏｈａｙｏ Ｇｏｚａｉｍａｓｕ」と日本語を交え､｢日本の兄弟姉妹に感謝（英文）」と文面は元気ですが、この間の闘病で体重は１４�垳此�Ｃ型肝炎由来の全身の皮膚の炎症で皮膚が破れ出血し深刻です。本件は真犯人の目撃証言が隠され、検察側証人が利益誘導されているなど、政治的フレームアップ事件です。いわば米国版白鳥事件ですが、ついに裁判所がムミアに請求権を認め、進展に期待が高まっていた中、米国も感染拡大。その後、現地支援者の発信も減少し、関係者の身も案じられます。米国時間で２４日、ムミアは６７歳の誕生日を迎えます。
（�霤萠款察�
〈激励先〉Ｍｕｍｉａ Ａｂｕ−Ｊａｍａｌ ＡＭ ８３３５ ＳＣＩ Ｍａｈａｎｏｙ ＰＯ Ｂｏｘ ３３０２８ Ｓｔ Ｐｅｔｅｒｓｂｕｒｇ， ＦＬ ３３７３３ ＵＳＡ
名張事件第10次再審（最高裁）署名用紙
