2021年10月15日号
2021年10月15日号
術後のせん妄が原因
東京・乳腺外科医師えん罪事件
最高裁での無罪へご支援を
東京・柳原病院副院長 八巻秀人さんに聞く
２０１６年５月、東京・柳原病院（民医連加盟）で乳腺腫瘍の摘出手術を執刀した外科医師の男性（当時４０歳）が、女性患者から「わいせつな行為をされた」と訴えられ、準強制わいせつ罪で逮捕・起訴されました。外科医師は一貫して無実を訴え、一審は無罪でしたが、二審で逆転有罪（懲役２年）、現在、最高裁でたたかっています。同病院の副院長で、当時女性患者の手術で外科医師の前立ち（助手）をしていた八巻秀人さんにお話を聞きました。
無罪から有罪に
――事件を簡単に説明してください。
手術を受けた女性患者が、病室に戻ってきて間もなく、まだ麻酔から十分に覚醒（かくせい）していない状態で、興奮しながら外科医師から左胸をなめられた、外科医師が自慰行為をしていた、などと言い出しました。
私も呼ばれて病室に行き、せん妄（＊）という専門用語は使わず、「術後は全身麻酔の影響で夢をみることがある」と女性患者に説明しました。患者の母親も「そんなことあるはずがない」と呆れていました。
しかし、女性患者はその場で知り合いを介して警察に訴えました。３カ月後、外科医師は出勤途中に突然逮捕され、１０５日間も勾留されました。
――東京地裁では無罪でしたが、東京高裁では逆転有罪でした。
地裁は、証拠を整理するための期日間整理手続に１年以上費やして争点を明確にして、１３回の公判を開き、私や看護師、科捜研（警視庁）やせん妄についての専門家の証言を直接聞き、慎重に十分な審理をおこない、１９年２月２０日、「女性患者はせん妄で幻覚を見ていた可能性が十分にある」などとして無罪としました。
しかし高裁は、せん妄について、検察、弁護側双方の推薦する精神科医を１人ずつ証言させただけで、みずから「せん妄については専門家ではない」と述べた検察側証人の証言を採用して、女性患者はせん妄状態にはなく証言は信用できるとして、２０年７月１３日、有罪を言い渡しました。
冤罪のポイント
――八巻さんが冤罪を訴えるポイントを教えてください。
●当時の状況
外科医師は、通常の医療行為として、術後の女性患者の状態を診るために訪れただけです。
病室は４人部屋で満床、術後看護のため看護師が何度も出入りし、近くに女性患者の母親もいましたし、向かい側の患者は家族とともに薬剤師から薬の説明を受けていました。
カーテンを閉めていたとはいえ、そのような状況で、胸をなめたり自慰行為をするでしょうか。当時の外科医師は手術着で、ズボンは紐で締めるタイプのもので、紐をほどいて自慰行為をすればズボンがずり落ちてしまいます。また、術後看護のため電動ベッドは一番高い位置に固定され、転落防止のためのベッド柵が装着されていました。床からベッド柵までの高さは１００〜１１０�僂△蝓⊃板坑隠僑記僂粒芦憤綮佞砲蓮▲戰奪漂瑤鮠茲蟇曚┐覆じ造蟠�(乳房)をなめ続けることは、物理的に不可能であることを確認しました。
●ＤＮＡ問題
検察は、女性患者の胸などから外科医師のＤＮＡ型が検出された、だからわいせつ行為があったと主張しています。しかし、乳腺外科の医師は患者の胸を触診したり、病状などを説明したりしています。そのことで医師のＤＮＡ型が患者に付くことは当然にあります。それで犯人だというのはおかしいです。新型コロナの報道で、ふだんのおしゃべりでも多くの飛沫が飛ぶ映像が放映されています。
鑑定もずさんです。外科医師のＤＮＡ型が出た、なめたとしかいえないくらい大量だと言っているんですが、証明できるものがありません。科捜研は鑑定後のＤＮＡ抽出液を全部捨ててしまい、科学的な検証ができません。その鑑定書の基となったワークシート（作業記録）も紙１枚に鉛筆書きで、わかっているだけで９カ所の消した跡、２カ所の書き加えた跡がありました。
●せん妄問題
私たちは、女性患者が嘘を言っているとは考えていません。その言動は、術後のせん妄によるものであると考えています。
私も外科医を２８年やっていますが、患者さんが術後のせん妄で大騒ぎする経験はままあります。
広がる医師の支援
――医師のみなさんからの支援が広がっていますね。
有罪判決を受けて、日本医師会の中川俊男会長と日本医学会の門田守人会長が合同記者会見を開き、声明（�〃�疑とされている外科医師の違法行為に蓋然（がいぜん）性がない、�△擦麑僂陵�無や症状について、国際的に確立された基準や医学的知見に基づいて判断してほしい、�４嫩蠅筝〆困魏奮愿�に正確に示してもらいたい）を出しました。この声明には６００人を超える医師が賛同しています。
また、日本医師会の今村聡副会長は会見で、「もし、このような判決が確定すれば、全身麻酔下での手術を安心して実施するのが困難となり、医療機関の運営、勤務医の就労環境、患者の健康にも悪影響を及ぼすことになる」と、医療現場への影響について述べています。
外科医師は、真面目で面倒見がよく、患者さんからも信頼が厚い先生です。このようなことをする医師ではありません。無罪を求める署名も約６万筆となりました。ネット署名も始めました。最高裁で無罪を勝ちとるために、全国からのご支援をお願いします。
〈要請先〉〒１０２‐８６５１ 東京都千代田区隼町４‐２ 最高裁第２小法廷
〈激励先〉外科医師を守る会 〒２７０‐１１６６ 千葉県我孫子市我孫子４‐９‐１０３ 渡辺誠二様気付
※署名・資料は、「外科医師を守る会」のホームページから。ネット署名にもご協力をお願いします。
（＊）せん妄とは、脳の機能不全で注意障害や意識障害を主とし、認知の障害を伴う病態で、３０％程度で幻覚を伴う。原因の代表的なものとしては全身麻酔。
滋賀・湖東記念病院国賠訴訟事件
県本部が県警に抗議
県警「西山さんは犯人」と準備書面
国民救援会滋賀県本部は１０月５日、湖東記念病院人工呼吸器事件の西山美香さんの再審無罪判決を否定する滋賀県警に対し、抗議の要請行動をおこないました。
本件は、湖東記念病院で看護助手だった西山さんが人工呼吸器を外して患者を殺害したとして起訴され、懲役１２年が確定した事件で、大津地裁は昨年３月、再審無罪判決を言い渡し、確定しました。１２月、西山さんは警察と検察の違法な捜査と訴訟活動の責任を明らかにするために国家賠償請求訴訟を提訴。この国賠訴訟で、県警が無罪判決を否定する準備書面を提出していることが、９月１６日に西山さんと弁護団の記者会見で明らかにされたものです。
弁護団と西山さんの記者会見によって、滋賀県や県警に対して抗議が集中し、９月１７日に三日月大造県知事は会見をおこない謝罪し、２８日には滝澤依子県警本部長も県議会で謝罪に追い込まれました。滝澤県警本部長は、「無罪判決を重く受け止めており、その認識は変わらない」と述べながら、その一方で「書面の表現には不十分な点があり、今後丁寧に主張をしていく」としています。
要請は滋賀県本部の中野善之助会長、馬場宏三副会長と川東繁治事務局長がおこない、中央本部と連名の抗議声明を提出、「汚名を晴らした西山さんの名誉と人権を再び踏みにじるものである」と、強く抗議しました。
そもそも、本件の再審公判で検察は「新たな立証は行わない、裁判所に適切に判断を求める」と論告し、求刑もできませんでした。それだけ、西山さんの無実は揺るぎないものだったのです。
再審無罪判決は、事件性をも否定し、自白の信用性にとどまらず任意性も認めない画期的なものでした。判決は、取り調べの警察官が、軽度の知的障害がある西山さんから恋愛感情を寄せられていたのを熟知しながら、捜査機関のストーリーに整合する自白を引き出そうと誘導したと断じました。
とりわけ問題なのは、県警が今でも西山さんを「殺人犯人」との認識をもって国賠裁判に臨み、再審無罪判決を「承服できない」との立場を堅持し続けていることです。抗議声明ではこの点を「文章上の表現の不十分さにあるのではない」と指摘し、誤りを誤りとして認め、二度と冤罪を生み出すことがないように真摯な姿勢で臨むことを強く求め、確定した無罪判決を蹂躙する警察の不当な言動に強く抗議しています。
第２５３次最高裁統一要請行動
公正な審理求める
署名を携えて要請
第２５３次最高裁統一要請行動が９月２４日におこなわれました。
刑事事件には１２人が参加。東京・乳腺外科医師えん罪事件守る会事務局長は、理科系学生が科学実験報告書を作成する際の教科書などを持参して、実験の信頼性を裏打ちするために実験メモはペン書きにすることや、データを添付するなどの諸注意が記述されている箇所を示し、東京高裁が逆転有罪の根拠とした科捜研の技官の杜撰な実験が信頼できないものであると力説しました。
外科医師の親族やその友人からは、本人と家族が冤罪に巻き込まれ苦しい生活を強いられていることや、誤った有罪判決が確定すれば、医師免許がはく奪されることを指摘し、世界的に確立されたせん妄の診断基準に基づく判決をするよう求めました。事件の地元・救援会足立支部の役員からは、事件が起きたとされる病室は４人部屋で、看護師も頻繁に出入りし、犯行できる状況ではなかったことや、ベッドの高さなどから被害者が証言するような犯行は物理的に不可能であるとしました。
静岡・天竜林業高校成績改ざん事件は、コロナ禍の緊急事態宣言中ということもあり、守る会総会の決議と守る会の会長名の要請書を中央本部に託して、署名３４８人分を提出しました。
民事事件では、関西外語大スト権裁判で３人が参加。原告の一人は、「法律が認める形でスト権を行使することは問題がないはずで、こんな判決が確定していいのか」などと訴えました。
名張事件第10次再審（最高裁）署名用紙
