2021年1月25日号
2021年1月25日号
冤罪に巻き込まれて一番つらかったことは「時間を奪われたこと」
茨城・布川国賠訴訟原告 桜井昌司さん
冤罪事件に巻き込まれて５３年。再審無罪を勝ちとり、誤判の原因を究明し、冤罪を生まないようにと国家賠償請求裁判をたたかっている桜井昌司さん。判決を６月２５日に控え、あらためて冤罪に巻き込まれての人生を伺いました。
―桜井さんは１９６７年に茨城県利根町布川で起きた強盗殺人事件で、杉山卓男さん（故人）と共に無期懲役刑が確定しました。冤罪事件に巻き込まれて、つらかったことはなんですか。
時間を奪われたことです。それが一番つらい。不自由とかということなどではないね。時間を奪われたこと、それに尽きるね。冤罪に巻き込まれた人ならみんなそう言うと思うよ。
―逆に、喜びを感じたことはありますか。
３１歳で無期懲役という有罪が確定した時から、自分は、刑務所のなかでも日々の暮らしの中で、喜びや楽しみを見出し、生きていくと決めたのです。人生は一度限り、今日は一日限り、だからたとえどこに居ようとも、そのなかで楽しみながら生きていくと決めたんです。もちろん、刑務所は楽しいところではないし、うれしいところではないよ。でも、日々の中で楽しみながら生きていくと決めました。その意味では、刑務所の中でも楽しく過ごした自信があります。
野球するときは、野球を楽しむし、仕事（刑務作業）をするときは仕事を楽しむ。将棋をするときもそう。
人としての喜びというのは、やはり国民救援会に出会って、無償の支援というものを知ったことです。国民救援会の支援を得て、無償の行為で支援する人たちと出会って、人間として大事なものは何だろうと気づかされたことです。ウソを言わない、一生懸命に生きる、こういう当たり前のことをやれるようになった自分が嬉しかったね。
１９９６年１１月に千葉刑務所から仮釈放で社会に出てきて、みなさんと一緒に暮らして、一緒に話し合えて、一緒に楽しく過ごせて、そういうことも含めて、嬉しかったね。そして、自分で仕事をして、自分のことを自分でできることが嬉しかったですね。刑務所では自分のことを勝手にすることは許されなかったのです。自分のものを洗濯することも、風呂に入ることも勝手には何もできなかったから。その意味では、社会に出てきて、自分のことができるようになったことが嬉しかったね。
無償の行為が真実を支える
―国民救援会に出会ってとおっしゃられましたが、国民救援会への思いを
俺の人生を変えてくれたと思っているよ。国民救援会を支える人たち、国民救援会で誠実に生きている人たちが俺の人生を変えてくれたと思っています。無償の行為で支援してくれる人たちがいる不思議さ、そういう人たちの生き方こそが世の中の正義や真実を支えるものだと理解したことが一番の力だね。
面会も、差し入れも、手紙もそうだよ。面会は、話したことに勇気づけられるわけではないです。来てくださること自体に勇気づけられるのです。時間を使って来てくれるということ自体に勇気づけられる、励まされるのです。正義とか真実を大事にするから、君たちも守るんだよという気持ちが嬉しいのです。
―６月２５日に高裁判決が出されますが、判決に望むことは
警察も検察も嘘が多すぎる。人間として恥ずべきだと思います。判決では、その点を厳しく断罪してほしいと思います。
―ガンとたたかっておられますが
昨年２月に、何の治療もしなければ余命１年ですと言われました。いわゆる治療はしていません。治療しても２年と言われましたから。いまは、食事療法と温熱療法をしています。あと、メタトロンという超低周波治療をしています。お陰様で、少しずつですが、快方に向かっています。
―ありがとうございました
〈要請先〉〒１００―８９３３ 東京都千代田区霞が関１―１―４ 東京高裁第２０民事部 村上正敏裁判長
静岡・袴田事件弁護団インタビュー（前）
差戻し審に向け
弁護団長 西嶋勝彦さん
昨年１２月、最高裁で袴田巖さんの再審請求を認めなかった東京高裁決定を取り消す決定が出されました。決定について、弁護団長に話を伺いました。
―今回の最高裁の決定のポイントは。
西嶋 最高裁第３小法廷の判断は、東京高裁に差し戻しせよという多数意見が３人、一方再審開始すべきだという少数意見の裁判官が２人いました。わずか１票の差で、差し戻しです。こういう割れ方をしたのは異例です。
決定の中身を読んでも、少数意見の２人（林景一裁判官と宇賀克也裁判官）の意見はなかなか合理的で、納得できますよ。しかも特徴的なのは、２人とも裁判官出身ではなく、外交官と研究者なんです。職業裁判官出身の人は多数意見で差し戻せと言っているけれど、２人の少数意見はここで再審開始を確定すべきとしました。内容的にも、静岡地裁の再審開始決定が合理的だと言っています。これは誰が見ても非常に説得的です。
最高裁決定は本田克也教授がおこなったＤＮＡ型鑑定について､｢新証拠にあたらない」としました｡しかし､本田鑑定が正しいんだということをさらに補強していく必要があるだろうと思います。
―犯行着衣とされた５点の衣類のみそ漬け実験について、弁護団が出した専門家意見書の信用性を否定した高裁の判断について、審理不尽と判断し、差し戻ししました。
西嶋 みそ漬け実験というのは非常に比重が高いことになってきました。これについて早速今からわれわれも、多数意見や補足意見が言う「審理不尽」の内容を覆す実験に取りかかる必要があるだろうと思います。今からでも差し戻し審の審理の開始を待つまでもなく、弁護団としても再度、厳重な実験条件のもとで、メイラード反応に関する意見書を書いてくれた先生と協力しながらスタートした方がいいんじゃないかと思います。
弁護団と支援者がやった、いわば素人が始めたみそ漬け実験がこれだけ新証拠としての価値があったというのは画期的だと思うんです。
袴田ひで子さんや巖さんは高齢です。だから、（衣類がみそに漬かっていたとされる）１年２カ月を待つまでもなく、数カ月で結論が出るような形で決定を出させたいと思っています。
ただ、差し戻しを受ける東京高裁は必ずしも最高裁が問題にしたみそ漬け実験だけに拘束されるわけではないだろうから、ほかの審理もしかねません。破棄判断の拘束力という理論的問題もあって、特に検察官の方でいろいろな主張・立証をしてきた場合に、それをどう打ち切って審理の枠を広げさせないで、差し戻し審を早期に切り上げるかということは必要だけれども、あまり早期、早期ということで、結論を急ぐことは良くないと考えています。新旧証拠の総合評価で新証拠の明白性が決まるわけだから、確定有罪判決の証拠がいかに脆弱なものであるかということをこれでもか、これでもかという具合にきちんと、主張していかなきゃいかんだろうと思います。
だから、みそ漬け実験だけに焦点を縛られるというか、焦点が向いて、それだけにどっとつかっちゃうと、ちょっとまずいんじゃないか。あらゆる論点についていかにインチキな証拠で巖さんが死刑判決を受けたのかということを手厚く主張立証していかないといかんだろうと思います。（次号へ続く）
鹿児島・大崎事件第４次再審請求審 鹿児島地裁
供述分析の３鑑定人尋問 男性を運んだ 住民の供述に疑問
１９７９年に鹿児島県大崎町で起きた男性の「殺人」死体遺棄事件で、親族の原口アヤ子さんら４人が起訴された大崎事件。現在第４次再審請求審が鹿児島地裁に係属しています。
１月７日、８日の両日、鹿児島地裁で弁護団が新証拠として提出した供述分析に関する鑑定人尋問がおこなわれました（非公開）。
亡くなった男性は｢事件｣当日、酒に酔い自宅から１・５キロ離れた地点で自転車ごと落差１メートルの側溝に転落し、付近の住民に助け上げられ、路上に放置されました。男性は約２時間半路上に倒れていたところを、近隣住民２人が軽トラックの荷台に乗せて自宅に運びました。確定判決では自宅に運ばれた時には、単に酔いつぶれていただけとし、泥酔のため自宅の土間に座り込んでいたところを原口さんらに殺害されたとしています。第４次再審請求では、男性を自宅に運んだ近隣住民２人の供述について、鑑定がおこなわれていました。
２日間の尋問後、弁護団は会見を開きました。弁護団によると出廷したのは、捜査段階の供述調書や第１次再審請求審の法廷証言をコンピューター解析した立命館大学・稲葉光行教授、供述心理学の手法から鑑定をおこなった淑徳大学・大橋靖史教授と青山学院大学・高木光太郎教授の三氏。
稲葉教授は、「一緒に運んだ２人が同じ体験をしているのに全く違うことを言っている。黙り込む、間を置く、運んだ直後の供述がいろいろと異なっている」と述べました。大橋、高木両教授は、「いづれも核心部分になると急に口ごもり、２人の供述には体験性が疑われる場面があった」と述べました。
弁護団事務局長の鴨志田祐美弁護士は、「異なるアプローチでおこなった２つの鑑定で、同じ方向の結論が出たことに大きな意味がある」と話しました。
再審求め要請
宣伝に市民から関心
鑑定人尋問に合わせて鹿児島県本部と大崎事件・原口アヤ子さんの再審をめざす会は１月８日、１０人で裁判所要請をおこないました。鹿児島地裁では再審をめざす会から「一日も早い再審開始を」訴え、全国から寄せられた、個人署名１，２３４人分を提出しました（累計８，１６１人）。
その後、鹿児島市の天文館にて１２人で宣伝しました。寒波が押し寄せ寒い日でしたが、スタンディング中心としたことが良かったのか、足を止め署名して、「まだ終わってないのか、裁判所は何をしているのか」と言った声が聞かれました。（鹿児島県本部・野元幸一）
東京・乳腺外科医師冤罪事件
署名１万余を提出 無罪を求め、最高裁に要請
外科医師が女性患者から「わいせつ行為をされた」と訴えられ、一審の無罪判決が二審で破棄され有罪判決、現在最高裁に上告している乳腺外科医師冤罪事件は１２月２４日、最高裁独自要請行動をおこないました。今回提出した署名数は１万１８６人分｡(累計で２３団体４万４３７１人分）
外科医師を守る会と東京都本部､葛飾､世田谷､国立、日野､三多摩総支部から９人が参加しおこないました。２０代から８０代の多彩なメンバーで、要請初参加は５人。要請では、各々が思う高裁判決批判を展開しました。
「北陵クリニック事件支援をするなかで、共通点が多い本件も支援している。司法が警察の不正を許してはならない」「（科捜研の検査官がワークシートを鉛筆書きしたことについて）大学生でもやらないこと。それを科捜研がするのか、という怒りがある」「裁判官は現場に足を運んで実際に見たり、当事者の人の声を聞いてほしい」「全身麻酔手術経験ある。せん妄の症状である幻覚を見た」「先日入院したが、こんな薄いカーテンだけで仕切られている病室で出来ないと分かった」というものも。
わずか３０分でしたが、とても充実した要請でした。（都本部）
名張事件第10次再審（最高裁）署名用紙
