日本国憲法と世界人権宣言を羅針盤に、弾圧事件・冤罪事件・国や企業の不正に立ち向かう人々を支える人権団体

2020年4月15日号

救援新聞より

2020年4月15日号  

滋賀・湖東記念病院人工呼吸器事件 西山さん 再審無罪 大津地裁  

裁判長「本件は事件性はない」

 入院患者殺害の犯人とされた看護助手の西山美香さんが再審を申し立てていた滋賀・湖東記念病院人工呼吸器事件で大津地裁は3月31日、西山さんに無罪判決を言い渡しました。西山さんは12年間服役し、事件発生から16年10カ月を経てようやく汚名を晴らしました。(2面に関連記事)
*再審無罪判決を出した裁判官=大西直樹裁判長、今井輝幸裁判官、進藤諭裁判官

 事件は2003年5月、湖東町(現東近江市)の湖東記念病院で、看護助手の西山さんが入院患者の人工呼吸器のチューブをはずして殺害したとされた事件です。
 1審大津地裁は懲役12年の判決。最高裁まで争いましたが有罪が確定し、西山さんは25歳から12年間を和歌山刑務所でおくることになりました。
 2017年12月に大阪高裁で再審開始決定が出されるも、検察が特別抗告。19年3月に最高裁が検察の抗告を棄却し、再審が確定。2回の再審公判を経て、再審無罪判決を勝ちとりました。

警察の違法捜査批判し自白排除

 裁判の争点は、患者の死因と西山さんの自白の信用性、任意性でした。
 今回の判決は死因について、遺体を鑑定した医師が、人工呼吸器のチューブがはずれていたことによる酸素供給欠乏による死亡としている点について、解剖所見以外に、警察からの「人工呼吸器のチューブがはずれていた」との真偽の不確かな情報が与えられていたことから導かれた誤った判断であり、信用することができないとしました。
 弁護団が提出した複数の専門家の意見書などから、死因は致死性不整脈や管への痰のつまりなどにより死亡した可能性もあると判断しました。
 次に自白については、「合理的な理由なく激しく変遷している上、客観的証拠とも矛盾する」として、信用性に疑いがあるのみならず、任意性についても明確に否定。捜査において弁護人との接見交通権を侵害したこと、Y警察官が西山さんが自分に恋愛感情を抱いていることを知った上でこれを利用し自白を誘導したこと、西山さんに知的障害等があることから判断し、自白は証拠から排除するとしました。
 そして、西山さんが犯人であるか否か以前の問題として、そもそも患者が誰かによって殺害されたという事件性すら証明されていないとしました。

裁判長 不当捜査を批判 「よりよい刑事司法の原動力に」  

 「被告人は無罪」。
 西山さんは主文を聞くと涙を流し、判決言い渡しの1時間半ほどの間、ずっと顔を上げ、裁判長を見ていました。確定審の1審判決以来、ずっと聞きたかった「無罪」を、やっと、裁判長の口から聞くことができたのです。
 判決を言い終えた後、大西裁判長は西山さんにこう説諭しました。

裁判官涙ぐみエールおくる
 「問われるべきは西山さんの(警察官に対して「人工呼吸器のチューブを外した」と話した)うそではなく、捜査手続きの在り方というべきです。警察官は、西山さんの自白が信用できるのか、疑問を差し挟むべきでした。迎合的な態度や自身への好意に気がついていたのだから、供述の誘導がないように慎重の上にも慎重を重ねるべきだった」と捜査のあり方を批判しました。
 また、「再審開始決定後、15年後に初めて開示された重要な証拠があります。取調べや客観証拠の検討、証拠開示、これらが一つでも適切におこなわれていれば、このようなことは起こりませんでした」と述べ、(今回の裁判が)「よりよい刑事司法を実現する大きな原動力となる可能性があります」と問題提起しました。
 そして、「西山さんが『被告人一人ひとりの声を聞いていただきたい』と言ったことに衝撃を受けました。あまりにも当たり前のことだからです。これまで被告人の声に耳を傾けてきたつもりでしたが、改めて、声を聞く重要性を感じました」と話し、最後に声を詰まらせながら、「これからはうそをつく必要はありません。等身大の自分に向き合い、自分自身を大切にして生きてください」と語りかけました。

花束かかえて満面の笑みを
 判決言い渡しを終えて、西山さんと弁護団は裁判所前で支援者を前に報告集会をおこないました。井戸謙一弁護団長は、「弁護団としてこの判決をきっかけに刑事司法が抱えている問題を改善していく必要があると考えていたが、裁判長から同様のことを語られたことに驚きました。これを機に刑事司法を変えていくことにとりくまなければいけないとの決意を新たにした」と語りました。
 西山さんは大勢の支援者から無罪を祝福する花束をおくられ、両手に抱えながら、「みなさんのおかげで無罪判決をもらうことができました。裁判長が『これから普通の女性として生きていってください』と涙ながらに言ってくれたことが本当にうれしかったです。ここまで来られたのも、弁護団の先生方や支援者のみなさんのおかげです。ありがとうございました」と満面の笑顔であいさつしました。
 西山美香さんを支える会の伊藤正一さんは、「長い長い年月でした。美香さんやご両親の肩に重くのしかかっていたものを取り払うことができて、本当に良かった。一方で、何の罪もない人を犯罪者として人生の一番大事な時期を奪った警察官、真実を見極められなかった裁判官に対して改めて強い怒りを感じます」と述べました。
 香川・財田川事件の再審無罪判決以後、数々の冤罪事件で無罪を引き継いできた「無罪」の掛け軸が、西山さんから日野町事件の阪原弘次さんへ手渡されました。
 検察は4月2日、控訴を断念したため、西山さんの無罪判決が確定しました。

さらなる再審法改正運動を

 無罪判決を受けて、西山美香さんを支える会、国民救援会滋賀県本部、中央本部、再審・えん罪事件全国連絡会は共同で声明を発表しました。
 声明では、判決が西山さんの虚偽の自白を強要した不当な捜査を厳しく断罪し、自白調書を証拠から排除したこと、西山さんの無実の叫びに耳を傾けてこなかったことを反省するとともに、冤罪を生まない刑事司法改革の必要性にも言及したことを高く評価しています。
 そして、冤罪犠牲者を早期に救済するため、警察・検察の手持ち証拠の全面開示と、検察の再審開始決定に対する上訴禁止を中心とする再審法改正に向けて、さらなる運動をすすめることを表明しています。

全国の国民救援会の皆さまへ ご支援を糧(かて)に頑張ります 西山美香さん  

 3月31日に念願の無罪判決をもらうことができ、大変うれしい気持ちです。
 この素晴らしい判決をもらうことができたのも、みなさんのご支援のおかげだと思っています。支える会や国民救援会の皆さまが無実だと信じてくれたことで、たたかってくることができました。全国から署名を送っていただき、そのたびに勇気づけられ、前向きに頑張ろうと思えました。
 そして、講演などに呼んでいただける機会も増え、カンパもいただき、ありがとうございました。
 まだまだこれからの私の人生、皆さまからのご支援を心の糧として、頑張っていきたいと思います。こんな私ですが、これからもよろしくお願いします。

鹿児島・大崎事件が第4次再審請求申し立て 原口さんの再審、今度こそ 鹿児島地裁  

 1979年、鹿児島県大崎町で、男性(以下、「四郎さん」とする)の遺体が自宅牛小屋の堆肥の中から発見され、義理の姉(当時)にあたる原口アヤ子さんが元夫らとともにタオルで四郎さんを殺害(絞殺)したとされ殺人罪と死体遺棄罪に問われた大崎事件で、3月30日、4回目となる再審請求の申し立てがおこなわれました。今回の請求は、原口さんが高齢(92歳)のため、娘の京子さんが請求人となりました。
 あいにくの雨の中、鹿児島地裁前に、九州各県からの国民救援会の会員、マスコミの人たちが大勢集まり、再審請求申立人と弁護団の激励集会。森雅美弁護団長があいさつし、冤罪被害者の青木惠子さん(大阪・東住吉国賠)、西山美香さん(滋賀・湖東記念病院人工呼吸器事件)、桜井昌司さん(茨城・布川国賠)が激励のあいさつ、九州各県の国民救援会の代表もあいさつしました。その後、弁護団が再審請求書の提出をおこなうために鹿児島地裁に入るのを参加者全員で拍手で見送りました。
 大崎事件は、これまで地裁・高裁で再審開始決定が3度も出されていますが、昨年6月25日、最高裁は、原口さんの無実の訴えを棄却しました。

最高裁の誤り証拠上明らか
 今回の第4次の申し立てで弁護団が提出した新証拠は、3つ。 峪溶困気鵑了猖柑期」について鑑定した澤野誠・埼玉医科大学総合医療センター高度救命救急センター長の鑑定書(以下、澤野鑑定)。∋溶困気鵑魴撻肇薀奪で自宅まで運んだ近所の住人のIさんとTさんの供述の信用性に関する稲葉光行・立命館大学教授によるコンピュータ解析の手法を用いた供述鑑定(以下、稲葉鑑定)。IさんとTさんの供述の信用性に関する大橋教授と高木教授の心理学鑑定(大橋・高木第3鑑定)です。
 第3次再審請求審の新証拠である吉田鑑定は、絞殺であれば、体内の血液が下方に集まり、死斑となって赤黒くなるが四郎さんの遺体の写真を見ると、堆肥の中で下になっていた遺体部分の色が白っぽくなっているので、死因は絞殺ではなく、出血性ショックの可能性が高いという鑑定でしたが、出血の箇所については推定を述べただけでした。昨年6月の最高裁決定は、この点を捉え、十分な所見に基づかないで、写真に写った外表からうかがえる変色のみを根拠に単なる可能性を指摘したにすぎないと批判しました。
 今回の澤野鑑定は、救命救急医としての経験と最新の医学知識に基づいて、遺体の腸を撮影した写真こそが死因を示すものであり、その基本的な死因は、非閉塞性腸管虚血による広範囲の急性腸管壊死であることを明らかにしました。
 四郎さんを自宅まで運んだIさんとTさんは、四郎さんは自宅到着後、一人で、あるいは肩を借りて歩いて自宅に入ったと供述しています。昨年の最高裁決定はこの供述を前提として棄却決定を出しました。しかし、澤野鑑定によれば、非閉塞性腸管虚血の状態にある者が「歩く」というようなことは絶対にありえないのです。
 稲葉鑑定と大橋・高木第3鑑定は、手法は違いますが、ともに、IさんとTさんの供述は信用性が低いことを明らかにしています。
 国民救援会は、鹿児島地裁に要請を行い、九州各県と中央本部の代表らが「弁護団提出の新証拠を審理し、一日も早く再審開始決定を出してください」などと述べ、当日までに集めた再審開始決定を求める1,396人分の署名を提出しました。

東京・乳腺外科医師冤罪事件 高裁で再び無罪を 弁護団「事件ではなく症例」 東京高裁  

 3月24日の控訴審第3回公判は、コロナウィルス対策で102号法廷に変更。約30人が、間隔を開けて傍聴しました。公判前、高裁前で横断幕でアピール行動をしました。
 冒頭、裁判長が、「被害者意見陳述の申入れがあったが、必要がないので認めない」旨言いました。
 弁論は、検察側・弁護側とも、書面提出をもって読み上げられたことになっていましたが、高野主任弁護人が補足発言。検察の主張を批判しました。「検察側推薦の井原氏は、せん妄の特徴を酩酊者の事例で説明したが、個人的見解に過ぎない」「軽い酩酊とせん妄を同列視するのは誤り」「大西教授(弁護人側推薦)の説明や、医学界・国際的に確立しているDSM―5(せん妄の判断基準)を丸ごと無視したもの」という批判でした。そして「これは事件ではなく症例」と訴えました。以上で結審となり、判決日が4月15日に指定されました。
 公判後、傍聴した医師から、「検察側は、国際的に確立しているDSM―5の基準で判断すること自体を否定した。これを採用する判決は相当難しいだろう」との感想が出されました。

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