日本国憲法と世界人権宣言を羅針盤に、弾圧事件・冤罪事件・国や企業の不正に立ち向かう人々を支える人権団体

2018年7月25日号

2018年7月25日号  

滋賀・日野町事件 故阪原さんの再審決定 大津地裁  

雪冤へ道開く
 強盗殺人の犯人とされた阪原弘(ひろむ)さん(故人)が無実を訴えつづけた滋賀・日野町事件で、遺族が訴えていた再審請求(裁判のやり直し)について、大津地裁は7月11日、再審を開始する決定をおこないました(2面に決定のポイント)。
※再審開始決定を出した裁判官=今井輝幸裁判長、湯浅徳恵裁判官、加藤靖之裁判官

 午後2時30分すぎ、大津地裁の玄関を出て正門に駆けつけた弁護団が手にした垂れ幕を広げ、「再審開始」の文字が見えると、祈るように見守っていた100人以上の支援者から「よっしゃあ」「阪原さんの無念を晴らしたでえ」と歓喜の声がわきました。
 ほどなく阪原さんの長男・弘次さんが裁判所から出てくると、たちまち支援者とマスコミに囲まれました。弘次さんは、「本当に夢のよう。30年間、心が折れそうになったことが何度もあった。そのたびに皆さんに助けられてやってこられた」と述べると、受け取った決定書を高く掲げ、「本当にありがとうございます」と頭を下げました。
 * *
 弘次さんの脳裏には、逮捕前日に家族一同が集められ、涙を流して話す父の顔が思い浮かんでいました。
 「父ちゃんは、(警察で)殴られても蹴られても耐えたんやけど、『娘の嫁ぎ先に行ってガタガタにしたる』と言われて、やったと言ってしまった。お前らだけは信じてくれ」
 第一次再審請求の途上、阪原さんが亡くなり、弘次さんは父の無罪を晴らす活動をやめようと考えました。「辛かった父を救おうと思ってやってきた。その肝心の父がいなくなってしまった。もうやめとこ。ここまで頑張ったんだ。いいじゃないか」。けれども、周囲の支援者から「みんなで頑張ろう」「父ちゃん、助けたろう」と声をかけられる中で再び奮起し、今日の決定を迎えました。
 「ここまで来れたのも本当に皆さんのおかげです。私たちを励ましていただきましてありがとうございます」
 * *
 決定後の報告集会で長女の美和子さんは、「何もしてあげられなかったけれども、父に一つ親孝行ができたような気分でいます。これから先、どうなるか分からないし、検察に対して怒りがわいてくるかもしれない。けれども、今はただ嬉しい。お腹いっぱいです。父も喜んでくれています。たたかって今日の決定を迎えられることができたのは皆さんのおかげです」と述べました。
 次女の則子さんは、「嬉しい、悲しい、辛い、そんな感情はまだなく、父が亡くなったときと同じような放心状態です。良い結果が出たことは、弁護団の先生方、国民救援会の方々が支えてくださったおかげだと心から思っています」と述べ、「これからも家族が力を合わせて頑張っていきます。ご支援をお願いします」と結び、3人にあたたかな拍手が送られました。

自白信用できない 再審決定 新旧証拠を総合判断 証拠開示がカギに  

 日野町事件は、1984年12月に滋賀県日野町にある酒屋の女性店主が行方不明となり、約20日後に遺体で発見された強盗殺人事件です。店の常連客だった阪原さんが、女性を殺害・遺棄し、金庫などを奪い山中に投棄したとして起訴され、無期懲役刑が確定しました。再審請求中の2011年に、阪原さんの死去で審理が打ちきりとなり、翌年遺族があらためて再審請求していました。
 事件は阪原さんの自白が大きな争点となっていました。警察は、事件から3年後、阪原さんを連日のように「任意同行」して長時間の取調べをおこない、犯行を「自白」させました。一審はこれらの自白は信用できないとしながら、情況証拠で有罪にできるとして無期懲役刑の判決。二審は、情況証拠だけでは有罪認定できないが、自白の根幹部分は信用でき、総合すれば阪原さんを犯人と認定できるとしていました。

脅迫受け自白任意性認めず
 今回の再審開始決定は、根幹部分で信用できるとされた確定審の阪原さんの自白について、新旧証拠をふまえると、信用性も任意性もなく、そのほかの間接証拠からも阪原さんの犯人性を推認することはできないとして、再審開始を決定しました。
 決定は、阪原さんが金庫の投棄現場まで案内でき、「秘密の暴露」にあたるとして確定審が有罪の根拠とした引き当て捜査報告書について、警察官による意図的な断片情報の提供を受けた結果として案内できた可能性があると認めました。これは、弁護団が新証拠として提出したネガフィルム分析報告書などを踏まえた判断でした。弁護団は、引き当て捜査報告書に添付された写真が、実は戻る道の途中で来た方向を向かせて撮影したものであることを指摘していました。これにより阪原さんが誰からも教えられずに投棄現場を知っていたとする一審判決などの認定が動揺しました。
 また、弁護団が提出した東京医科大学・吉田謙一教授の鑑定などを踏まえると、遺体の状況は、「殺害時、左手を首の後ろに当てた」とする自白と整合しないと認めました。新旧証拠を総合すると、阪原さんの自白は殺害態様などの重要な部分において信用性がないと認めました。
 さらに、長時間の取調べと警察官からの暴行、加えて「娘の嫁ぎ先に行ってガタガタにする」などの脅迫を受けた結果、犯行を自白した疑いがあるとして、自白の任意性も否定しました。
 被害者方の手鏡に阪原さんの指紋が付着していた点や阪原さんが主張していたアリバイなどの情況証拠も、新旧証拠を踏まえれば確定判決の認定が動揺し、阪原さんの犯人性を推認することは認められないとしました。
 以上から再審事由である「無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したとき」に該当すると結論づけ、再審開始を決定しました。今回の決定は、新旧証拠を総合的に評価し、確定判決の有罪認定に合理的な疑いが生じれば再審を開くべきだとした最高裁の白鳥・財田川決定に則した判断です。

事件の真実は未開示証拠に
 第二次再審請求審では、裁判所、検察官、弁護団の三者協議で、弁護団が要求していた証拠開示が大きく進みました。再審決定の決め手となった引き当て捜査調書の写真のネガフィルムも、これまで開示されてこなかった検察の手持ち証拠にあったものです。検察の隠している全ての証拠を明らかにすることが、真実を明らかにする上で大きな力になることを示しています。
 国民救援会は、ただちに大津地検に対して不服申し立て(即時抗告)を断念するよう申し入れをおこない、翌12日には鈴木亜英会長を先頭に最高検察庁に要請しました。

〈激励先〉 〒527―0038 東近江市聖徳町4―14 全教・湖東第一教職員組合内 再審無罪を求める会
〈激励先〉 〒520―0044 大津市京町3―1―2 大津地裁・今井輝幸裁判長

「司法の責任は重い」伊賀弁護団長 再審決定を評価  

 決定後に開かれた報告集会で、弁護団長の伊賀興一弁護士は、挨拶で次のように述べました(要約)。

 本日、阪原弘さんに対する再審開始決定が出たことを報告させていただきます。真実を見抜けなかった裁判所、真実を歪めて有罪判決を取ろうとした警察、検察の責任は極めて大きいと思います。
 * *
 決定は、確定審の旧証拠に新証拠を加えて総合的に評価をすると、有罪方向に認定された事実のことごとくに疑問が生じ、有罪判断を維持できないと論述しています。
 有罪の根拠の一つ、引き当て捜査の調書は、「犯人でなければこんな道は案内できないはずだ」という状況証拠として使われており、自白の根幹部分が信用できる根拠として大きく位置づけられていました。その土台が演出だったことを裁判所に強く訴え、裁判所が検討するきっかけになりました。
 決定のもう一つの特徴は、阪原さんの知的な制約に対する見方です。確定判決や第一次請求審での判断は、阪原さんは「嘘でも何でも言う奴だ」「普通だったらしないことでも彼ならやる」と使われていました。
 しかし、今回の決定の中では、そういった制限を持った人の特徴を考慮し、強い人に対しての抵抗が弱いことや、自分がよく見られるために、知らない事でも知らないと言えないなどの特徴をあげ、コミュニケーションの問題に造(ぞう)詣(けい)の深い判断をしています。
 * *
 今回の決定、阪原さんがここにいたら喜ぶとは決して思っていません。「誰が失った時間を取り戻してくれるのか」。そう言うに違いない。
 再審開始を決定した裁判官には敬意を表しますけれども、これ以上無駄な時間や誤った判断が加わることのないようにしてほしい。検察が即時抗告することなく速やかに再審裁判が開かれるよう、弁護団も申し入れをしていきます。

冤罪事件当事者も激励に 西山美香さん「再審決定は宝」  

 大津地裁前には、再審開始決定を勝ちとった他の事件当事者も決定を見届けに来ました。
 同じ滋賀県内の湖東記念病院人工呼吸器事件で再審開始決定を勝ちとり、最高裁で特別抗告審をたたかう西山美香さんは、「今日の再審決定は私の人生の宝物です。嬉しい思いをさせていただきました」と話し、「自分の裁判と合わせて再審無罪が取れるように頑張る」と力を込めました。
 茨城・布川事件で再審無罪を勝ちとった桜井昌司さんは、「検察は引き当て捜査の調書が捏(ねつ)造(ぞう)だと分かっていたはず。嬉しい気持ちはありますが、こんな事をした警察や検察が許されたままでいいのか」と怒りをぶつけました。そして「一日も早くこの家族がホッとできるよう、そして新たな闘いをできるようご支援ください」と結びました。

栃木・今市事件 8月3日控訴審判決 勝又さんの無罪を要請 東京高裁  

 控訴審判決が8月3日と迫っている今市事件で、冤罪今市事件勝又拓哉さんを守る会と国民救援会栃木県本部、首都圏の救援会都県本部は7月11日、東京高裁へ要請行動をおこないました。参加は17人。
 勝又さんは2005年に小学1年生の女児を殺したとして、宇都宮地裁で無期懲役の判決を受けています。控訴した東京高裁の審理では、勝又さんの「自白」と客観的事実との矛盾が法医学者の鑑定や証言等で明らかにされました。それにもかかわらず、検察は犯行の日時・場所を大幅に広げる訴因の変更を申し立て有罪を維持しようとし、東京高裁も検察の訴因変更を認めています。
 守る会のメンバーらは、正午に東京高裁前で宣伝をおこない、その後、要請行動をおこない、団体署名155団体分、個人署名528人分(累計5921人)を提出しました。
 参加者は、「控訴審で明らかになった事実に基づいて、勝又さんに逆転無罪判決を」と、口々に訴えました。

〈要請先〉〒100―0013 千代田区霞が関1―1―4 東京高裁 藤井敏明裁判長

勝又拓哉さん
 今は、弁護士が出した最終弁論の弁論要旨を毎日読んで、士気を高めています。8月3日は、必ず無罪を勝ちとって記者会見を開きたいと思っています。
 平日に1日1通しか発信できないので、年賀状の返信がやっと3分の1終わったところです。あとの方へは、無罪を勝ちとって、一気に返信したいものです。
(守る会の会員あての手紙より)

〈激励先〉〒124―8565 東京都葛飾区小菅1―35―1 勝又拓哉 様

上川陽子法務大臣の死刑執行に抗議する 日本国民救援会  

 日本国民救援会は死刑執行について7月7日、声明を発表しました。
 *
 上川陽子法務大臣は7月6日、7人もの死刑囚の死刑執行をおこないました。死刑制度に反対する国民救援会は、今回の死刑執行に抗議するものです。
 今回、死刑が執行された元オウム真理教教祖・松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚をはじめ元幹部らによる坂本堤弁護士一家殺害事件や松本サリン事件、地下鉄サリン事件など一連の事件は、社会を震撼させました。国民救援会は、事件の支援を共におこなった坂本堤弁護士と、妻の都子さん、長男の龍彦ちゃんの救出を全国の組織をあげてとりくみ、オウム真理教の犯罪捜査に遅れをとった警察の捜査のあり方を厳しく批判しました。
 このような立場から、元教祖・幹部には、事件の真実を明らかにし、生涯をかけてみずから犯した罪への反省をおこなう責任があると考えてきました。今回の死刑執行によって、それはできなくなりました。
 死刑は、国家権力が人の命を奪う残虐な刑罰であり、誤判に対する回復不可能な刑罰です。その犯罪抑止力についても検証はされていません。
 国民救援会は、免田、財田川、松山、島田の死刑再審無罪4事件をはじめ、袴田巖さんなど無実の死刑囚の救援を進めてきました。(略)
 人間のおこなう裁判に誤りがないという保障はありません。
 国際的にも、死刑廃止条約(自由権規約第二選択議定書)等において死刑廃止の方向が打ち出され、国連総会においても「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議が繰り返し採択されています。(略)以上から、国民救援会は、(略)当面、死刑の執行を停止し、死刑廃止にむけて国民の間で冷静に議論を尽くすことができるように必要な情報を公開するなどの措置をとることを求めます。

powered by Quick Homepage Maker 3.60
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional