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2018年6月25日号

2018年6月25日号  

袴田事件 不当決定 再審開始取消し 死刑・拘置停止は維持 東京高裁  

 1966年におきた一家4人の強盗殺人・放火事件の犯人として袴田巖さんの死刑判決が確定した袴田事件の再審請求の即時抗告審で、6月11日、東京高裁(大島隆明裁判長)は再審開始決定を取り消し、再審請求を棄却しました。弁護団は最高裁に特別抗告する方針です。

無実の証拠全否定
 4年をかけた即時抗告審は、再審開始の柱となった弁護団のDNA型鑑定の有効性と、5点の衣類が1年2カ月も味噌に漬けられていたとしては不自然であることを示す味噌漬け実験報告書の評価などが争点となりました。大島裁判長は、科学的な検討をすることなく、DNA鑑定は「信用できない」として切り捨て、その他の弁護側の主張も可能性や推論を持ち出して一切を退け、再審開始決定を取り消しました。一方、袴田さんの死刑と拘置の執行停止については、袴田さんの年齢や生活状況、健康状態を考慮するなどして、「職権を発動して取り消さない」と決定しました。

袴田さん「ウソだ」
 裁判所の門前に駆けてきた弁護士が「不当決定」の垂れ幕を開くと、集まった支援者からは、驚きと戸惑いの交じった声が漏れました。
 決定後の記者会見で秀子さんは、「大変残念な結果でございますが、巖の身柄が拘束されないと書いてありますので、まず一安心しております」と述べました。しかし一方で、「刑務所から出てから4年、だいぶ巖も(社会に)なじんできて、このあいだ(通称犖單弔気鵑諒畢瓩法法惺せの花』なんて書きました。巖には30歳から幸せなんていう言葉はなかったんです。やっと幸せという言葉が出てきたんです」と悔しさを滲ませました。
 当日、袴田さんは浜松にいて、支援者から決定内容を伝えられると「ああ、そう」とだけ回答し、代表取材をする報道記者の質問に「そんなのウソ言ってるだけだよ」と答えました。(3面に関連記事)

袴田事件 1966年、静岡県清水市で味噌製造会社の専務一家4人が殺害された事件。従業員で元プロボクサーの袴田巖さんが取調べで虚偽自白を強要され起訴された。客観的証拠がなく裁判が行き詰まる中、事件の1年2カ月後に味噌樽から血が付いた5点の衣類が見つかり犯行着衣と認定。死刑判決が確定した。2014年、静岡地裁は5点の衣類は捏造の疑いがあるとして再審開始と死刑・拘置の執行停止を決定。袴田さんは48年ぶりに釈放された。即時抗告審では、検察側の要求でDNA鑑定の信用性を検証する実験が、検察側推薦の鑑定人の手でおこなわれた。また取調べを録音したテープが開示され、自白強要した違法捜査の実態も明らかになっていた。

袴田事件の再審取消し刑事裁判の鉄則を逸脱  

 東京高裁での4年におよぶ即時抗告審では、再審開始決定の根拠となった筑波大学大学院・本田克也教授のDNA鑑定の信用性の評価や、1年2カ月味噌漬けした衣類の色の不自然さ、取調べテープによる違法捜査の実態などが重要な争点となりました。ところが決定は、ことさらDNA鑑定だけに狭めて証拠の明白性を評価し、他の証拠は「補助的なもの」として証拠価値を貶(おとし)め、その上でDNA鑑定は信用できないとして再審開始を取り消す結論を導き出しています。
疑問を聞かず
「信用できぬ」
 決定は本田鑑定に対する否定的な文献などを根拠に「一般的に確立した手法ではない」として信用性を否定しました。また、犯行着衣とされた「5点の衣類」の味噌色が薄いことから、1年2カ月も味噌に漬け込んだというのは不自然であるとする味噌漬け実験報告書についても「信用できない」と切り捨て、その結果として捜査関係者の証拠捏造についても否定しました。
 西嶋勝彦弁護団長は会見で、「今回の決定は、本田鑑定の新規明白性を否定することに百万言の言葉を費やした。DNA鑑定さえ崩せば、有罪判決は守られると思ったのだろう。不当な論法だ」と述べました。そして「もし本田鑑定に疑問があるなら、鑑定人尋問で自らが抱く疑問をぶつければよかった。しかし裁判官からまともな質問は一つも出なかった。それでいて決定で批判がましい評価をしている」と指摘しました。
白鳥決定から
背を向け判断
 4年前の静岡地裁の再審開始決定は、「5点の衣類」だけでなく、袴田さんの逮捕後に郵便局で発見された不自然な紙幣(記番号部分のみが焼かれ、イワオの記名がある)や、下に履いているのにズボンよりも血痕が多いステテコや、サイズが小さく袴田さんのウエストでは履けないズボンなどの事実についても疑問を向け、新旧証拠も含めて総合評価した上で証拠は捏造されたと断定し、再審開始を決定していました。
 一方、今回の決定は、新旧証拠を総合評価すると言いながら、各論点については、弁護団の主張に対して別の可能性があると持ち出し、個別に評価して排除しています。刑事裁判の鉄則である「疑わしきは被告人の利益に」という最高裁白鳥・財田川決定に背を向けた判断でした。
 国民救援会も参加する「袴田巖さんの再審無罪を求める実行委員会」は、同日抗議声明を発表し、「国民の常識とはかけ離れた暴挙」「多くの国民は裁判に対し、絶望感しか覚えない」と述べ、袴田さんの無罪判決をもとめて、引き続き最高裁で闘うことを表明しています。

〈抗議先〉〒100―0013 東京都千代田区霞が関1―1―4 東京高裁・大島隆明裁判長

袴田さん再収監許すな  

 袴田巖さんの再審開始決定が取り消されたことを受けて翌6月12日、日本プロボクシング協会は、袴田秀子さんとともに最高検察庁を訪れて、袴田さんを再び拘置所に収監しないよう求めました。
 要請後の記者会見で秀子さんは、「50年闘ってダメだったからやめるのではなく、100年に向かって闘いたい」と決意を述べ、輪島功一さんは、「袴田さんが元気なうちに答えを出してほしい」と訴えました。
 この行動は、再審開始が維持されることが前提で、検察に特別抗告を断念を求める想定でしたが、支援の広がりを示そうと実施したものでした。検察庁に1万7千人分におよぶ署名を提出しました。

栃木・今市事件 判決、8月3日に 弁護団が総括弁論し結審 東京高裁  

 2005年に女児を殺害し遺棄したとして、勝又拓哉さんが殺人罪に問われている栃木・今市事件で、6月9日、東京高裁(藤井敏明裁判長)で控訴審第8回公判が開かれました。勝又さんの弁護団が総括弁論をおこない結審し、判決が8月3日に指定されました。
 この事件での有罪の最大根拠は、複数の検察官と警察官が作り上げた4通の自白調書です。弁護団は、自白は140日以上にわたる身柄拘束と強圧的な取調べで誘導されたもので、信用性がないと指摘し、遺体や現場の客観的状況と整合しないとして次の点を強調しました。
 まず殺害方法について。有罪を認定した原審は、女児の左肩を掴んで立たせたまま、複数回刺したとする自白を採用しています。これに対し弁護団は、強い力で刃物を刺したり抜いたりして力が加われば、体が動いて創傷部に刃先で生じる切り傷(切創)が残るはずだと指摘。遺体に切創がなく、10カ所の刺し傷は1カ所を除き、いずれも垂直に入って垂直に抜けていることから、「自白のような殺害方法は不可能」と主張。10カ所の傷のうち背中に突き抜けた傷が1カ所だけであることからも、「固い床の上に寝かせて刺したと考えるのが合理的だ」と述べました。
 次に殺害場所について。原審は遺体発見場所を殺害場所と認定しています。弁護団は、遺体に残存する血液量はわずかで、体重から換算して約1リットルの血液が流出しているはずなのに、現場に1リットルにおよぶ血だまりはなく、解剖時に流出した可能性もないことから、自白と整合しないと指摘し、客観的事実と矛盾する自白の信用性を認めた原判決は「論理則、経験則に反する」と述べました。
 また、自白で「陰茎を尻の間にこすりつける」といった濃い接触をしているのに、女児の遺体や付着していた粘着テープからは勝又さんのDNAは検出されていないことからも、自白は信用できないと主張。一方で粘着テープや遺体の微物から、勝又さんや捜査関係者とは異なるDNA型が検出されており、第三者の関与を示すと述べました。
 さらに原審が「殺人事件を謝罪する内容だ」と認めた勝又さんの母宛ての手紙について。弁護団は、主観で一義的に判断すべきではないと主張しました。「お母さんが病気になって、その頃からでもちゃんと働き始めれば、今の状況にならなかった」という記述について弁護団は、母親が病気になったのは今市事件後のことで、勝又さんが働いても事件の発生を防ぐことはできないことから、時系列的にみて「今の状況」は虚偽の自白調書にサインしたことと見るのが自然だと指摘。「多義的な解釈の可能性を無視して有罪方向への推認力を働かせるのは誤りだ」と強調しました。
 手錠腰縄姿で入廷した勝又さんは、髪の毛の生え際が頭頂部近くまで後退し、逮捕時に報道された少年のような面影はありませんでした。弁論の結びに鹿島秀樹弁護士は、「被告人の著しい風貌の変化は、おかれた環境や心境を物語る。被告人は被害女児を殺していない。無罪判決を」と締めくくりました。
〈要請先〉〒100―0013 千代田区霞が関1―1―4 東京高裁・藤井敏明裁判長

関西えん罪事件連絡会「たんぽぽの会」 320人が冤罪救援誓う  

 関西えん罪事件連絡会「たんぽぽの会」が、6月2日、大阪市内で「なくそうえん罪救おう無実の人々 関西市民集会part11」を開催し、320人が参加しました。
 第1部は、たんぽぽの会の10年のあゆみを映像で綴(つづ)りました。東住吉冤罪事件の再審無罪判決にわく裁判所前、長生園不明金事件の街頭宣伝活動で住民に無実を訴えつづける姿などが画面に広がりました。
 全国で冤罪をたたかう事件の招待者が登壇。静岡・袴田事件、宮城・仙台北陵クリニック筋弛緩剤冤罪事件、鹿児島・大崎事件、栃木・今市事件を闘う当事者の家族らがマイクを握り、無実の家族を助けてと訴えました。
 第2部では、ラップミュージシャンで泉大津コンビニ窃盗事件で冤罪を晴らしたSUN(サン)―DYU(デュー)(土井佑輔)さんのグループが登場。力強いリズムの声が会場一杯に響き、「冤罪撲滅ライブやってます。3人とも国民救援会に入っています」とのトークに、割れんばかりの拍手が起こりました。
 冤罪事件を闘うたんぽぽの会の仲間がいっせいに壇上に上がり、7月11日に再審開始の可否判断が出される日野町事件の阪原弘さんの遺族・弘次さん、美和子さんが、「殺人の罪を晴らせず逝った父の無念を晴らしたい」と決意を述べ、参加者が満場の拍手でこたえました。アピールの採択につづき、「たんぽぽの歌」を全員で合唱(写真)。冤罪救援を誓い合いました。

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