日本国憲法と世界人権宣言を羅針盤に、弾圧事件・冤罪事件・国や企業の不正に立ち向かう人々を支える人権団体

10年4月25日号

10年4月25日号  

三重・名張毒ぶどう酒事件が最高裁で差戻し決定  

 1961年、ぶどう酒に農薬を入れて女性5人を殺したとして、殺人罪などで奥西勝さんが死刑判決を受けていた三重・名張毒ぶどう酒事件で、最高裁第3小法廷(堀籠幸男裁判長)は4月5日付けで、再審(裁判のやり直し)決定を退けた名古屋高裁決定を取り消して、審理を再び同高裁へ差し戻す決定を出しました。最高裁は、犯行に使われた毒物の鑑定について、審理が不十分と判断。早期の再審確定をもとめて、名古屋高裁に要請を集中しましょう。

 「主文 原決定を取り消す。本件を名古屋高等裁判所に差し戻す」
 決定は裁判官全員一致の意見でした。

 名張事件は再審をめぐり、05年に名古屋高裁刑事1部で、再審開始決定が出されました。しかし、検察の不服申立てを受けた同高裁の刑事2部が、06年に再審を取り消す決定を出し、弁護団が不服を申し立て、最高裁でたたかわれていました。
 奥西さんが犯人とされた根拠のひとつが、犯行に使われた毒物は、奥西さんが所持していた農薬・ニッカリンTであるという事件当時の鑑定です。毒物がニッカリンTでなければ、奥西さんの自白が虚偽のものであることが証明できます。
 そこで弁護団が新たに鑑定をおこなったところ、当時の鑑定には、ニッカリンTならば必ず検出されるはずの成分が検出されていないことを突き止めました。使われた毒物は別のものであることが分かり、再審決定につなげました。
 しかし、再審を取り消した高裁決定は、毒物がぶどう酒で薄められたため、成分の一部が検出できなくてもおかしくないと、根拠のない推論で再審の扉を閉ざしました。
 最高裁は、この高裁の判断を「科学的知見に基づく検討をしたとはいえず、推論過程に誤りがある疑いがある」と指摘。農薬の問題について「審理が尽くされておらず、原決定を取り消さなければ、著しく正義に反する」と述べて、名古屋高裁で審理を尽くすよう命じました。

 国民救援会は、「奥西さんの、まさに生涯をかけた願いの実現に向けて新たな展望ある第一歩が踏みだされた」「奥西さんを社会にとりもどすために全力を挙げる」と声明を発表しています。

国民救援会らが検察庁へ要請  

 決定により、奥西さんは「再審開始・死刑執行停止」の立場になりました。40年以上拘禁され、84歳となった奥西さんの苦悩を考えれば、一刻も早い釈放が必要です。
 国民救援会らは、7日に名古屋高検へ、8日に最高検へ緊急に要請行動をおこないました。
 要請では、足利事件で検察官が職権で菅家さんを釈放したように、奥西さんをただちに釈放するよう要求したほか、異議申立てを取り下げて早期に再審を確定させ、隠している証拠を開示し、無辜を処罰することなく検察官の職責をまっとうするよう求めました。
 参加者は、「最高裁が検察の立証は全くなってないと言っている。直ちに異議申立てを取り下げなさい」「国際人権規約委員会から勧告を受けているのを知っているのか」などと述べて、検察の姿勢を正しました。

一刻も早く再審開始を  

 名張事件で最高裁が出した決定によって、いったん閉ざされた再審の扉に再び光が差しはじめ、ふたたび名古屋高裁でのたたかいが始まります。全国の力を集中し、一刻も早く再審開始決定を確定させましょう。

 今回の最高裁決定は、刑事裁判において科学的な鑑定結果を重視することを強調しているといえます。
 もともとの05年の再審決定は、裁判所が弁護団の鑑定と主張を全面的に採用し、無罪を言い渡すべき新証拠だと認めました。
 一方、06年に再審を取り消した高裁の審理では、検察は新たな鑑定も出さず、非科学的な弁解を連ねた文書しか提出しませんでした。ところが高裁は、根拠のない主観的な推論を立て、「本人の自白が一番信用できる」と言って再審を取り消したのです。最高裁は、こうした科学的鑑定を軽視した判断に警告を出したものと評価できます。
 足利事件では、DNA型鑑定が決め手で再審決定が出されました。布川事件でも殺害方法の鑑定や、「自白」テープの解析に基づいて再審開始が確定しています。近年、科学的な鑑定が裁判の結果に大きな影響を与えています。
 こうした科学重視の司法判断の流れをさらに強めるものです。

 しかし、最高裁の決定にはいくつかの問題点があります。一番大きな問題は、自ら再審開始決定すべきを差し戻したことです。
 刑事裁判には、「疑わしきは被告人の利益に」という原則があります。これは、犯罪を犯したとする証明を、検察が一点の疑問もなく立証できなければ、被告人を無罪にしなければいけないという鉄則で、再審の場合にも適用されます。最高裁自身が75年に出した白鳥決定では、「再審開始のためには確定判決における事実認定につき合理的な疑いを生ぜしめれば足りる」と言っています。
 今回の決定では、「(再審を取り消した原決定が)科学的知見に基づく検討をしたとはいえず、その推論過程に誤りがある疑いがあり…原決定を取り消さなければ著しく正義に反する」とまで述べています。最高裁は差し戻さずに自ら再審開始を決定すべきでした。弁護団もこの点を批判しています。

 事件発生から約50年。84歳になる奥西さん。残された時間は限られています。人生の半分以上を拘置所などで過ごしました。
 名古屋高裁で始まる審理では、検察にこれ以上の引き延ばし策をさせないよう、声をあげて立ち向かう必要があります。
 各マスコミの論調も、最高裁が自判せず差し戻しをしたことを批判しつつも、再審への道を開いたことを評価し、無辜の奥西さんを救済するために審理を急げというものです。圧倒的な世論で裁判所を包囲できる状況です。
 これまでに全国で無数の宣伝・集会、全国ブロック別要請をはじめ、40回以上の最高裁要請がおこなわれ、7万5千筆の署名、1万5千通のハガキが届けられ、最高裁を動かす大きな力になりました。決定を受けて4月16日には愛知で、22日には東京で集会がおこなわれます。
 広範な人びとに事件の真実を訴えて、「良心」の声を名古屋高裁に集中することで裁判所に再審を開かせ、奥西さんを生きて社会に取り戻す道が切り開けます。

奥西さん「命の限り頑張る」  

 決定が届いた4月6日、弁護団は名古屋拘置所を訪れ、奥西勝さんと面会しました。入浴後の火照った顔で現れた奥西さん。「差戻し決定です」と言われてもキョトンとしていました。弁護士が「勝ったんだよ」と言うと、奥西さんは安堵の表情を浮かべました。
 特別面会人の稲生昌三さんも6日と14日に面会。奥西さんは、「差戻しと聞いてちょっと不安になりましたが、一条の大きな光、再審の扉を開ける可能性、展望も見えます。支援者の皆さんには、これまでに倍する支援をお願いしたい。よろしく頼みます。命の限り頑張ります」と身を乗り出して話しました。

民主党議連、法務省に取り調べの全面可視化を要請  

 国民救援会は、取調べの全面可視化の早期実現をめざし、4月8日、法務省(千葉景子法務大臣宛)と民主党「取り調べの全面可視化を実現する議員連盟」会長の川内博史衆議院議員を訪れ、要請しました。要請には、鈴木亜英会長はじめ、布川事件の桜井昌司さん、杉山卓男さん、3月に無罪判決を勝ちとった枚方冤罪事件の倉美由紀さんも同行しました。
 民主党の川内議員は、「全面可視化の方向で考えている」、「江戸時代からの歴史を変える大変なこと、諦めずねばり強くとりくむ」と述べました。
 杉山さんは、「裁判で警察とこちらの言い分が違ったときには水掛け論になる。全面可視化をすれば、水掛け論にならずにすむ」などと述べ、倉さんは、「手錠をされたまま取調べを受けたこともある。『やっていないなら証拠を出せ。出せないなら、やったということだ』と決め付けられた」など不当な取調べの実態を訴え、可視化の必要性を訴えました。
 一方、法務省は、可視化の早期実現はできない旨回答。また、裁判の一方当事者には会えないとして、3人の事件当事者が退席をさせられる不当な対応があり、抗議しました。

静岡・熱海で裁判交流集会を開催  

 すべての裁判で前進・勝利を勝ちとろうと「第20回裁判勝利をめざす全国交流集会」(主催=全労連、自由法曹団、国民救援会)が4月11日、12日、静岡・熱海市でおこなわれ、26都道府県・41事件、153人が参加しました(写真)。
 国民救援会中央本部の本藤修副会長の主催者挨拶につづき、東京高裁で無罪を勝ちとった国公法弾圧堀越事件など4件の特別報告がおこなわれました。
 自由法曹団団長の菊池紘弁護士から「裁判闘争をどうたたかうか――たたかってこそ明日はある」と題して問題提起を兼ねた記念講演がおこなわれました。菊池弁護士は自らたたかった裁判の経験を紹介しながら、「足利・布川の勝利、JR採用差別事件の解決案、堀越事件の無罪判決、いま新しい時代が来ている。裁判闘争をたたかってこそ、この国の自由と民主主義が守られ、未来を切り開くことができる」と語りました。その後、この提起を受けて労働事件、刑事事件、再審事件、言論弾圧事件の4つの分科会に分かれて経験を交流し、教訓を学び合いました。
 2日目の全体会議では、自由法曹団の鷲見賢一郎幹事長から「国会改革・比例定数削減反対のたたかい」として特別報告がおこなわれたのち、活発な議論がおこなわれたそれぞれの分科会から報告がありました。そして、5月13日に判決が予定されている世田谷国公法弾圧事件の宇治橋眞一さんが決意を述べました。
 最後に全労連の根本隆副議長が討論のまとめをおこない、「団結がんばろう」で集会をしめくくりました。

JR採用差別事件で労組側が政府解決案を受け入れ  

 1987年、国鉄を分割・民営化した際に、労働組合などに所属していた労働者1047人をJRが不採用にしたJR採用差別事件で、4月9日、政府から一人当たり約2200万円を支払うなどの解決案が示されました。当事者4者と支援4団体が協議し、この政府案について「4者・4団体が求めていた『路頭に迷わない解決』という要請の主旨に沿った内容」として、受け入れを表明しました。
 この事件では、当時の中曽根内閣が国鉄分割・民営化を強引にすすめたために引き起こされた不当労働行為として、23年間も解決を引き延ばしてきた政府の責任が問われ、原告らは裁判に訴えながらもその政治的な解決を求めていました。
 記者会見で、国鉄労働組合の高橋伸二委員長は、「24年目にして解決の大きな扉を開くことができた。尽力していただいたみなさんに感謝したい」と述べました。解決案に対しては「JRに対する雇用の確保の点では、必ずしも万全ではない」と指摘し、JRに改めて雇用を受け入れるよう要求しました。
 4月12日付で出された4者・4団体の声明では、既に亡くなられた60人の原告らとともに解決の日を迎えることができなかったことは残念とし、「雇用問題を含む全面解決に至るまで引き続きご支援・ご協力をお願い」しますと訴えています。
 JR採用差別事件では、各地の国民救援会が事件当初から支援を続けています。

NTTリストラ裁判が高松高裁で勝利判決  

 NTTが11万人のリストラ・合理化のために50歳退職などを強要し、拒否した労働者に対し、本人とその家族の生活を無視した遠隔地配転をおこなったことは不当だとして全国でたたかわれているNTTリストラ裁判で、愛媛県で働いていたNTT西日本の労働者3人が配転無効確認や損害賠償を求めた控訴審の判決公判が3月25日、高松高裁(杉本正樹裁判長)でおこなわれました。
 杉本裁判長は一部の配転について「不当な差別的意図を推認することができる」として、NTT西日本に対して慰謝料の支払いを命じました。
 原告団は、NTTの早期退職の廃止まで引き続き全力を尽くす、と声明を出しました。

個人通報制度求め外務省に要請  

 人権を侵害された個人が国内で手段を尽くしても救済されなかった場合に、国際機関に通報ができる個人通報制度の早期の批准を求めて、4月6日、国民救援会は、外務省に要請をおこないました。要請したのは鈴木亜英会長、瑞慶覧淳中央本部事務局長、葛飾事件の荒川庸生さんほか、兵庫から参加した4人を含めて15人です。
 応対した人権人道課課長からは、職員は批准に向けてがんばっていること、個人通報制度を批准したら、報告書を作成するために人を増やして欲しいと大臣には要求しているなどの回答がありました。
 最後に、全国から送られてきた3473人分の批准を求める個人署名を提出しました。

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