日本国憲法と世界人権宣言を羅針盤に、弾圧事件・冤罪事件・国や企業の不正に立ち向かう人々を支える人権団体

10年10月5日号

10年10月5日号  

福岡・爪ケア事件で逆転無罪判決  

 入院患者の爪を深く切ってケアしたことで、看護師の上田里美さんが傷害罪とされた事件で、9月16日、福岡高裁(陶山博生裁判長)は上田さんのケアを正当な看護行為と認め、捜査段階での「自白」は誘導された疑いがあるとして、一審の有罪判決(懲役6月・執行猶予3年)を破棄し、逆転無罪判決を言い渡しました。

 「一審判決を破棄する。被告人は無罪」
 法廷に裁判長の声が響くと、満席の傍聴席から拍手がわきおこりました。上田さんの目からは涙があふれ、判決言い渡しが終わるまで肩を震わせながらハンカチを握りしめていました。
 判決は、上田さんの行為は「看護目的とみなされ、手段からしても正当な業務行為と言える」として、爪ケアであることを認めました。さらに、一審で有罪の根拠となった上田さんの捜査段階の供述調書について、「爪をはいだ」という客観的な状況にそぐわない表現が繰り返し使われていることなどから捜査官の誘導を疑わざるを得ないと、自白の信用性を否定しました。

 上田さんが勤務していた北九州市にある病院は、高齢者を対象とした療養型医療施設でした。07年、看護課長だった上田さんは、入院中の痴呆症患者が不衛生に伸びた爪でシーツにひっかけたりして怪我をしないように、医療用のニッパーで深く切るなどのケアをおこないました。このケアを「爪はぎ」と誤解した一部の病院スタッフが問題視してマスコミに情報をリーク。病院経営陣は事態収拾のために関係者の調査もしないまま「虐待」があったとする認識を示し、上田さんを刑事告発しました。マスコミからは「看護師の爪はぎ、虐待」とセンセーショナルに報道され、上田さんはその後警察に逮捕されました。
 100日間におよぶ警察での取調べ。上田さんは、捜査官に何度も「普通に仕事をしていただけで、看護行為だった」と説明しても、「それは違う」「人としてどうなんだ」と責められました。その結果、自分の意図とは違う供述調書が作り上げられました。
 裁判では一貫してケアであることを主張してきました。しかし、一審の福岡地裁小倉支部では、「患者の爪を切る行為自体に楽しみを覚えていた」とする、誘導された供述をもとに傷害罪が認定され、懲役6月・執行猶予3年の有罪判決が出されていました。
 判決は、「上田さんの供述調書(自白)は、真意を反映せず、捜査官の意図する内容になるよう誘導された疑いが残る」と指摘し、あらためて取調べの全面可視化の必要性を浮き彫りにするものとなりました。
 事件をめぐって、看護師などで構成する日本看護協会なども、「実践から得た経験知に基づく看護ケア」だとする見解を発表。判決も「爪切りは適切で、微少な出血は問題ない」とする専門医の鑑定や証言などを採用し、「最も信用性が高い」と評価しました。

 報告集会で上田さんは、支援者に「無罪」の垂れ幕を掲げました。この垂れ幕は、同じ北九州市で起きた引野口事件の無罪判決(08年)のときに掲げられたものでした。
 あいさつで上田さんは、「無罪判決を信じていましたが、これで安心して看護師が続けられます。支援して下さった方がたに深く感謝しています」と止まらない涙をぬぐいながら話しました。
 福岡高裁には、判決日までに3万名分を超える署名が届けられました。地元の国民救援会北九州総支部を中心に、福岡県内の救援会員も毎回の裁判傍聴、署名行動にとりくみました。
 上田さんを支援していた「爪ケアを考える北九州の会」は、無罪判決を受けて声明を発表し、「上告断念、それが正義の府たる検察の取るべき正しい道であろう」と上告断念を求めています。

静岡・袴田事件で検察が証拠開示  

 検察が隠していた証拠が決定打となって布川事件で再審開始が確定しました。検察が一定の証拠開示に応じる動きが出ています。再審をめぐる2つの事件の動きを紹介します。

 1966年に、みそ製造会社の役員一家を刃物で殺害し放火したとして、死刑判決を受けた元プロボクサー・袴田巌さんの再審を求めている袴田事件で、第2次再審請求をめぐる9月13日の3者協議(弁護団、静岡地裁、静岡地検)で、検察側が7項目28点あまりの証拠を開示しました。弁護団は、記者会見で、「再審に直結するものではないが、一歩前進」と評価しています。
 開示されたのは、被害者の返り血がついたとされる犯行時のズボンなど5点の衣類のカラー写真や警察の捜査報告書のコピー、衣類の製造・販売元の関係者の供述調書などです。
 袴田さんは、警察での19日間におよぶ取調べの末、犯行を「自白」させられましたが、裏付けとなる物的証拠はありませんでした。逮捕から1年2カ月後、突如みそ樽の底から、みそ色にそまった血痕のついた5点の衣類が「発見」されました。ところが、ズボンは袴田さんの体型よりも小さく、はけないことや、ズボンよりも下着に多量の血痕が付着しているなど矛盾が多く、弁護団は「捜査側の捏(ねつ)造(ぞう)だ」と指摘しています。
 1年以上もみそに漬けた衣類はどういう状態になるのか――弁護団の実験の結果、みその発酵がすすみ、衣類は生地の色も血痕も見分けがつかないほどに真っ黒になってしまうことが分かりました。弁護団は、開示された衣類のカラー写真だけでなく、ネガも提出するよう求めています。
 袴田さんは、現在74歳。30歳で逮捕されて以来45年にわたって拘束され、現在は東京拘置所に収監されています。長い拘禁生活の影響で精神に異常をきたし、親族・弁護団が面会しても不可解な発言が多く、意思疎通も困難な状況です。袴田さんを正常に回復させるためには、再審で無罪を勝ちとり、社会に戻すことが必要です。

〈再審決定要請先〉〒420―8633 静岡市葵区追手町10―80 原田保孝裁判長

司法修習生給費制度存続求め2千人がパレード  

 司法修習生に対する給与の支給(給費制)が11月に廃止される問題で9月16日、東京・日比谷において給費制存続を求める司法関係者と市民による決起集会と国会要請のパレード(主催=日本弁護士連合会)がおこなわれ、2000人が参加しました。

 パレードに先立っておこなわれた決起集会で、日弁連の宇都宮健児会長は、冤罪事件や市民事件をたたかっている当事者からの話をあげ、「市民は弁護士の社会的貢献を求めている。それに応え、日弁連として、何としても給費制維持を勝ちとらなくてはいけない」と決意を表明しました。
 連帯の挨拶に立った国民救援会の望月憲郎副会長は、「さまざまな階層からの出身者が法曹界に養成されてこそ、広い視野に立った、国民にわかりやすい、憲法にそった公正な裁判がおこなわれる」と指摘し、「いっそう大きな運動をおこして、司法修習生に対する給与支給の継続を実現させよう」と訴えました。
 パレードで参加者は「この国の未来の司法を壊すな」、「市民のための法律家を育てよう」など、元気にシュプレヒコールをあげて国会に向けて行進。衆・参議院議員面会所前では共産党・公明党・国民新党などの国会議員が立ち並び、参加者の要請を受けました。
 パレード後におこなわれた国会での集会では、ほぼすべての政党から国会議員が出席。司法修習生からは、「市民に貢献するために弁護士になりたいが、先行きが不安だ」、「もうすでに多額の借金を抱えている」などの実態が語られ、あらためて給費制の必要性が明らかになりました。
 これまでに国民救援会がとりくんできた裁判闘争でも、人権擁護に燃える弁護士との共同したたたかいによって、言論弾圧事件に立ち向かい、冤罪犠牲者や行政・企業などによる人権侵害を受けた人たちを救済する道を拓いてきました。給費制の存続は、人権擁護と社会正義の実現のために欠かせません。

茨城・布川事件の桜井昌司さんからのメッセージ  

 人が金儲けの道具にされる時代の今こそ、人が人として生きる手段としての法律が大切になりますし、常識ある法曹家を育てることが大切です。しかし、法治国家の根幹である法曹の育成さえも、今の日本は金によって区別けしようとしています。
 お金のあるなしではなくて、志のあるなしで頑張れる社会でありますように、皆様にも声を上げて頂きたいと思います。私も自らの体験を語る中で、今の法曹界ゆえに生み出される冤罪と問題を訴えていくつもりです。(配布資料に掲載された「市民の声」より)

熊本・中国人実習生訴訟で責任追及に道開く勝利判決  

 外国人研修・技能実習制度で来日した中国人技能実習生が、過酷な労働を強いられ、最低賃金法違反を告発した熊本・中国人実習生訴訟で9月13日、福岡高裁(西謙二裁判長)は第一次受け入れ機関の責任を認め、慰謝料の支払いなどを命じる勝利判決を言い渡しました。
 判決は、一審の熊本地裁判決と同様に実習生の労働者性を認めると同時に、人権侵害の防止などのために研修生を管理する事業協同組合などの第一次受け入れ機関の管理責任について、一審よりも踏み込んだ判断をおこないました。特に、機関のずさんな監査を指摘し、内容次第では賠償義務を負うことを示しました。これは、全国で初めて、機関に対する責任追及の道筋をつけた画期的なものです。
 原告の1人、劉君さんは記者会見で、「勝ててうれしい。私たちだけでなく、全国の実習生にもいい影響を与えると思う」と語りました。

比例定数削減で大阪5団体が各党へ申し入れ  

 国民救援会大阪府本部は9月16日、自由法曹団大阪支部・大阪憲法会議・大阪労連・民主法律協会とともに5団体で各政党(自民・民主・公明・社民・共産)に対し衆議院比例定数削減についての申入れをおこないました。民主党は総選挙の公約で衆議院比例定数の80削減を掲げ、自民党も「定数の1割以上」の大幅削減を主張しています。国民救援会は民意をゆがめる小選挙区制に反対し、民意をありのままに反映する選挙制度として比例代表制を求めてきました。
 申入れでは、比例定数を削減すれば民意がゆがめられ、国会に反映されなくなり、国民主権の原理に反すること、少数政党が排除され、議会制民主主義の破壊につながることを指摘し、比例定数削減には反対の一致点で力を合わせようと訴えました。
 社民党、公明党、共産党は、反対を明言。社民党、共産党では、ともに反対運動を強化しましょうと反応がありました。自民党では府連の事務局長が対応し、「議員は多すぎる」という声を意識しているようでした。民主党は、申入れがあったことを伝えるというのみでした。
 その後、各党が意見交換を始めているとの新聞報道もあり、徐々に比例定数削減阻止の動きが見え始めています。

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