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足利事件再審無罪について

【声明】

足利事件再審無罪判決について  

2010年4月1日
日本国民救援会
会長 鈴木亜英

  3月26日、宇都宮地方裁判所(佐藤正信裁判長)は、足利事件再審公判において菅家利和さんに対し、無罪判決を言い渡し、検察の上訴権放棄により即日確定した。菅家さんは、無実の罪により17年半もの長きにわたって理不尽な拘禁を余儀なくされた。遅きに失したとはいえ、晴れて雪冤を果たしたことについて、心から菅家さんに対して祝福の辞を送るとともに、菅家さん救援の運動を全国で展開してきた団体として、まことに喜びにたえない。
  本件における誤判の証拠構造は、開発の揺籃期にあってまったく信頼性をおくことのできなかったDNA型鑑定と、捜査機関によって強要されたウソの自白であった。
  判決は、「本件DNA型鑑定は、その証拠価値がなくなったことはもとより、…証拠能力を認めることができない」として、証拠から排除するとともに、「菅家氏の自白は、それ自体として信用性が皆無であり、虚偽であることが明らかというべきである」として、「菅家氏が本件の犯人でないことは誰の目にも明らかになった」と明言した。そして、再審公判で証拠調べを行い、原一審での公判中における森川大司検事の取調べ情況を録音したテープについて、同検事が、その取調べについて弁護人への事前連絡をしなかったことはもとより、菅家さんに対して、取調べに応じるか否かは任意であることや黙秘権の告知、弁護人の援助を受ける権利について一切説明しないままに、ウソの自白の維持を強要していたことを指摘して、「違法な取調べであった」と断定した。こうして判決は、菅家さんが求めていた「真っ白な無罪」の要求に応え、判決朗読後に、謝罪文を読み上げて、裁判官全員が立ち上がり、菅家さんに向かって深々と礼をした。かつての吉田石松翁事件再審無罪判決(名古屋高等裁判所1963年2月28日)のように、判決文において謝罪を明記したことにはおよばないとしても、謝罪文に記された「自戒」の真摯さを示すものとして評価できる。
  足利事件の再審公判と無罪判決、およびその即日確定は、菅家さんの完全無実を明らかにしただけではなく、冤罪・誤判の全体構造を解明する課題も、あらためて突きつけるものとなった。冤罪・誤判の構造的要因は、取調べの過程にも裁判の過程にも存在している。
取調べの過程における、単なる見込みによる密室での自白強要は、直ちに制度上正されなければならず、そのためには、取調べにおける全過程の可視化(録音・録画)の法制化が急務である。
  また、裁判の過程における冤罪・誤判の構造的要因の中心は、つとに、広く指摘されてきたとおり、裁判官による「推定有罪」の立場からの自白偏重と科学無視にある。足利事件の確定審および再審請求を棄却した第一審という4つの裁判所の犯した誤りは、まさにその典型であった。今回の判決でも、捜査機関の取調べの違法は、公判廷においては「検察官のみならず、公正中立な立場の裁判官に加え、被告人の権利を防御する弁護人が列席しているのであり、…強制や威迫、不当な誘導等を受けない保障が…制度的に確保されている」ことを理由に挙げて、「公判期日における菅家氏の自白の証拠能力には影響を及ぼさない」としている。菅家さんは、再審においても、原一審公判当初自白を維持したことについて、背中(傍聴席)からの取調官の眼を感じ、怯えてしまい、否認することができなかった旨を供述していた。こうした冤罪犠牲者の心理は、なにも菅家さんに限らず、これまでの冤罪事件(免田事件、氷見事件等)でも見られた共通する特徴である。判決が、こうした事実に眼をつむり、公判供述の証拠能力を肯定するに際して、ことさらに上記の理由を挙げたところに、裁判官において共通する奥深い自白偏重が、なお払拭されていないことが示されている。
  裁判員裁判が開始されて、国民が刑事裁判に関与するという、まったく新しい刑事裁判の運用がなされている現在、「推定無罪」、「検察官の立証責任」にもとづいた「疑わしきは被告人の利益に」という「刑事裁判の鉄則」(最高裁白鳥決定)を貫くことが特別に重視され、とくに裁判所において意識的に追求されなければならない。
  国民救援会は、引き続き、全国で無実を叫ぶ冤罪犠牲者の救援に尽力するとともに、冤罪・誤判根絶のための法制化と、再審審理のみでは限界がある冤罪・誤判を生み出す構造的要因の全体像を解明することについて第三者機関による検証を要求する。併せて、裁判員裁判において「推定無罪」「疑わしきは被告人の利益に」との刑事裁判の鉄則を運用において貫くことを裁判所に要請し、また国民に対しては、その鉄則の普及のためにさらなる奮闘を誓うものである。

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