加藤さんご夫妻のインタビュー記事
―逮捕された当時の状況はどうでしたか？
寛治
７月９日の早朝、参議院選挙の宣伝をしようと思い、１人で出かけました。私が現場に到着してから準備をするまで、ずっと見ている男がいましたが、「人を待っているのだろう」とあまり気にしてはいませんでした。ところがポスターを信号柱などに仮止めし終えたところでパトカー３台が呼ばれ、現われた警察官に「名前と住所を言え」と突然言われました。それからしばらく地域の人ともめていましたが、間もなくパトカーに無理やり押し込まれ逮捕されました。
則子
見送った後、近所の方が知らせてくれて、逮捕されたことを知りました。夜には帰ってくると思っていました。ポスターを貼っただけだし、重大な事件だという認識はありませんでした。
―取調べの様子は？
寛治
私は完全黙秘ということで一通の調書にも署名・捺印をしませんでしたが、はじめは雑談はしました。あるとき、取調官にどんな世の中をめざしているのかと聞かれ、私は「幸せな家庭と平和な社会です」と答えました。そうすると「そんなええこというて、悪いことしたら認めなあかんやろ」などと言って供述を迫ってきました。「たとえ関係ないことでも喋ってはいけない」と固く思いました。
一番辛かったのは、やはり兄の悲報を聞いたときです。取調官は「今のままやったら葬式は行けない。住所と名前をいうたらええねん」と言ってきました。しかし、もし行けたとしても、手錠・腰縄で焼香をあげるのは嫌やからと思い、兄や親族に心中で謝りながら黙秘を貫きました。葬式の日の朝には、右手に「兄貴」、左手に「成仏」と書き、合掌して冥福を祈りました。
則子
彼は黙秘できると思っていました。普段はよく喋る人ですが、警察という組織や権力が大嫌いな人だというのは知っていましたから。
―家宅捜索のときの様子は？
則子
７月２２日、突然５人の警察官がやってきました。家宅捜索があるかもしれないことは地域の人から聞いていて、「冷静に、冷静に」と自分に言い聞かせていました。
令状を持ってきましたが、押収するものがたくさん書いてあって、覚え切れないので「コピーさせてください」と言いましたが、それはダメだと言われ、仕方なく読み上げてもらうことになりました。
全ての部屋を１５分ずつほど見ていって、猫のトイレなどに使っていたプラスチック板５枚を持っていきました。近所の方に電話しようかとも思いましたが、警察が「誰に電話するんや。○○（地域の方の名前）やろ、呼べ、呼べ」と言ったので、電話をするのはやめました。私の手紙や日記まで、中を見られました。
―激励行動について。
則子
ほとんど一緒に参加しました。地域の人、弁護団、みんな必死にやってくれているので、私も「何かやらなきゃ」という思いがありました。
私は運動というものを全く知らなかったので、激励行動でも最後に「奥さんです」と紹介されて、「明日もガンバロー｣と言うのも大変でした｡
寛治
妻や地域の人の励ましというのはものすごい力になりました。顔が思い浮かべられますから。みんなががんばってくれているということが伝わってきました。
そういう意味では、弁護士さんというのは僕と地域の人たちをつなぐ大事なパイプだったと思います。弁護士さんが来てもらえること自体がすごくありがたかったです。
―勾留理由開示公判はどうでしたか？
寛治
もう本当に嬉しかったですね。留置場でもシュプレヒコールなどの激励の声が聞こえていましたが、その人たちと顔を合わせることができたわけですから。
「こういう人が来ているんだ」とか「これだけの人が応援してくれている」と実感できました。
―この経験で得たものは何でしょうか？
則子
地域の人たちの支援の力ですね。よく世話をしていただいて、気を使っていただいて、誰かが毎日訪れてくれました。
寛治
もし、妻が「たたかいたくない」とか言っていたら、私もたたかうことはできませんでした。留置場の中は、全部が不安になって何を信じていいかわからなくなりますから。
その中で妻が頑張って、それを周りの地域の人が支えてくれました。このことはもっと大事にしていかなければいけないと思います。
―国民救援会への思いを一言お願いします。
則子
国民救援会は名前しか知らなかったんですけども、すごく大きな力でした。
西区支部でも県本部でも、激励行動、宣伝行動、ニュースの発行など、そういった的確な行動を迅速にやってくれて本当に驚きました。
寛治
政党とは違う民主主義を守る大きな力だと思います。こういう力を大きくすることが、民主主義を一歩一歩前進させることにつながると思います。
―お話ありがとうございました。
名張事件第10次再審（最高裁）署名用紙
